【 最後の願い 】





・・・300年の間で・・・友達は・・・・・・おまえだけだった・・・


そして・・・・・愛したのは・・・・・・おまえだけ・・・・・



やっと・・・やっと・・・おまえに逢える・・・おまえの所に行ける・・・

・・・ずっと・・・ずっと逢いたかった・・・

俺の願いはいつも・・・おまえの傍にいたい・・・それだけだった・・・・・










あの女魔法使いから逃げて、100年がたった頃だった。
俺は、ある小さな村の外れにある小屋に身を潜めていた。
この外見は、何年たっても変わらない・・・だから、ここに居る時間も限られている。

だから、誰とも関わるつもりなんてなかったのに・・・





「ねぇ・・・どうしてそんな瞳をしてるの?」

俺の目を、何の躊躇もなく覗き込んできた少女。意味が分からなくて黙っていたら、

「寂しいの?」

そう聞かれた。俺は激しく頭を振った。今更寂しいなんて思うわけない!
そんな感情は俺にはもう存在しない!・・・そう思っていたのに・・・

「泣かないで・・・私が傍にいるから。ずっと・・・」

優しく微笑まれて、ふわりと抱き締められ、俺は初めて自分が泣いていた事を知った。
それと同時に、触れてしまった・・・温かな存在に・・・
・・・二度と触れる事はないと思っていた、温かな想いに・・・



少女は名をといった。
可愛らしい外見とは裏腹に、芯はしっかりしていて、俺はよくに叱られた。
『もっと、自分を大切にしなさい』と。

あの日から、は本当にずっと俺の傍に居てくれた。
朝早くに俺の所に来て、1日中一緒に過ごした。でも、べったりくっついている訳ではなく、
存在を感じる事の出来る距離にいつも居てくれた。

俺にとってが、何よりも大切な存在になるのに、時間などかからなかった。





あれから・・・と初めて会った日から、もう5年か・・・

「そろそろヤバイ・・・な。」

村の人達が、いつまでも姿の変わらない俺を、不信に思い始めている。
今までは、そうなる前に村を出ていたのに、こうなるまで俺にはその決心がつかなかった。

「・・・・・・」

この5年の間に、彼女はとても綺麗に成長していた。
それでも、あの日と変わらぬ優しい笑顔で、ずっと俺の傍に居てくれた。
切ない想いと共に・・・



「今夜・・・この村を出るか・・・」

俺が恐れているのは、村の人達だけではなかった。何よりも俺が恐れているのは、俺の右手・・・

俺の廻りを巻き込んで不幸にし、俺の一番大切な者の魂を盗む“ソウルイーター”

俺だけならいいが、おまえを巻き込むのだけが恐かった。
おまえだけは俺の分まで、幸せになってほしかったから・・・





深夜、俺は村を出て行こうと小屋の扉を開けたら、

「っ!!」

目の前に、泣きながら俺を睨み付けて立っている、が居た。

「おまえ、こんな夜中に何やってんだよ。早く家に帰れ、送って行ってやるから!」

そう言った俺に、流れる涙を拭おうともせず、

「・・・テッド・・・出て行くの・・・?」

それだけ言葉にすると、そのまま俺に抱き付いてきた。
の背中へと回り、抱き締めそうになる自分の腕を必死に押し止め、そっと肩を掴んで離し、

「・・・、俺は・・・」
「私、知ってるよ・・・」

俺の言葉を遮るように、が言葉を発する。俺の右手を抱き締めて・・・

「・・・?」

自分の身体が震えるのが分かった。

「ここに何があるのか、私知ってる・・・5年もずっと傍に居たのよ・・・あなただけの傍に・・・」

そう言いながら、俺の右手にそっと口付けるを、俺は衝動的に強く抱き締めていた。

「お願い・・・連れて行って・・・」

胸の中から聞こえてくるその声に、抱き締めている腕に力が篭る。
出来るものなら、このまま連れ去ってしまいたい・・・だけど・・・

、俺はおまえを不幸にしてしまうんだ・・・だから・・・」
「テッドが傍にいない事以上の不幸なんてありえない!」

更に強く抱き付いてくるに愛しさが込み上げ、本当に攫ってしまおうかと思った俺の脳裏に、
あの女魔法使いの顔が浮かんだ。


ダメだ・・・もしあの女魔法使いに見つかったら?俺ではなく、が狙われたら?
このソウルイーターは、きっと俺の目の前で、を殺してしまう。


そこまで考えて、ゾクリと身体が震えた。
俺のその恐怖が伝わったのか、がゆっくりと顔を上げる。
そして、崩れ落ちるように、その場に座り込んでしまった。

「じゃあ・・・私にあなたをください・・・」
「え?」
「テッドがここに居たという証を私に刻み込んで・・・お願い・・・」
・・・・・」

本来ならば、出て行く俺がこんな事をしていいはずがなかった。
今以上に、を傷付け、苦しめる事になると分かっていたのに、それでも・・・それでも俺は、
おまえに俺を忘れてほしくなかった。ただのエゴだとは分かっていたけど・・・


俺はを抱き上げ小屋に戻り、その扉を閉めた。






早朝、身支度を整えた俺は、ベッドで眠るを覗き込み、

、愛してる。俺の心はここに、おまえの傍に置いていく。」

誓うように唇にそっとキスを贈ると、そのまま小屋を出た。
昨夜、俺の腕の中でが言った言葉を思い出し、かみ締めながら・・・

「普段は私の事なんて忘れてもいい。でも、最後の時には私の事を思い出して。必ず迎えに行くから。」




・・・おまえの事を忘れた事なんて1度もなかった。
そして、もうすぐ訪れる最後の時に想うのも、おまえの事だけ・・・
俺の願いはただ一つ。おまえの傍に居たかった・・・


もうすぐ行くよ、おまえの元へ・・・迎えに来てくれるんだろう・・・?
恨み言でも何でも聞いてやる。だから・・・だからこれからは、ずっと俺の傍に居て。


今でも、そしてこれからも、永遠に愛してる・・・俺の・・・