【 生まれ変わっても 】





人間など、俺には関係ないと思っていた。
俺達エルフに比べたら、あまりにも儚く終わってしまう、その一生。
解放軍に協力していても、それはあくまでもキルキスが居たからだった。
長い俺の一生の中で、少しくらい人間と関わってみてもいいかと思った。

ただ、それだけだったはずなのに・・・





・・・俺が初めて『人間』ではなく『名前』で呼んだ女。
無意識にその姿を捜している自分に気付いて、驚き、困惑する。
人間なんて、俺達エルフに比べたら・・・と、いつも蔑んでいたはず・・・

その俺が・・・1人の人間を相手に、こんな気持ちになるなど・・・





「ルビィ!」

が俺の名を呼ぶ。その唇から俺の名前が出てきたそれだけで、こんなに嬉しく感じ、
手を振りながら駆け寄ってくる、その笑顔が俺だけに向けられている事に幸せを感じている。

そう・・・これは幸福感。

が傍に居るだけで、今まで感じた事のないような幸福な気持ちになれる。
ただ、それだけの事。だが、1番大事な事、だよな。

そろそろ自覚するべきか・・・この俺の中にある想いを・・・





「・・・ルビィ、どうしたの?」

心配そうに覗きこんでくるその頬に、そっと手を当てると、すぐに真っ赤になり視線を逸らす。
だが、俺の手を離させようとは、しない。そんなに愛しさが込み上げるが、それと同時に、
同じくらいの恐怖が俺の心を覆う。
は人間。確実に俺よりも先に死ぬ。俺はそれに、耐えられるのか?

不意に俺の手が温かいものに包まれる。
俺の手を握り、不安気に見上げるの瞳を見た瞬間、俺は衝動的にを抱き締めていた。
一瞬、身を固くしただったが、すぐにその身体から力が抜け、俺に預けてくる。
暫くの間、俺はその身体を離せなかった。





・・・お前は俺より先に死ぬんだよな。」

腕の中で大人しく抱かれていたが、弾かれたように顔を上げる。
それを見つめる俺は、きっと情けない表情をしているんだろうな。
の腕が伸び、そっと俺の頬に触れる。その感触が気持ち良くて、俺は目を閉じた。

「私・・・生まれ変わるから・・・」

耳に届いたの小さな声。だが俺がそれを聞き逃す筈もなく、驚いて目を開けると、
照れたような表情で、

「生まれ変わって・・・またルビィを見つけるわ・・・そして、きっと・・・」

何も発言出来ない俺に、悪戯っぽい笑みを浮かべて、

「でも、姿形が変わっちゃうから、ルビィの方が気付かないかも。」

・・・お前、今自分がどこにいるか分かってて言ってんのか?

「それは・・・ありえんな。」

言い切る俺を『え?』と見上げたその顎を、指で固定して、

「俺は、お前の姿形を愛したわけじゃないからな。」

そのまま唇を塞ぐ。1度目は軽く。2度目は角度を変え、深く口付けていく。


長いキスから解放すると、呆然と俺を見つめ、

「・・・ルビィ・・・今、何て・・・?」

震える声で聞いてくる。その身体をもう一度強く抱き締め、耳元で囁く。

・・・俺はお前を愛してる。」
「私も・・・ルビィを愛してる。」

溢れる涙を唇で拭い取り、そのまま再び口付ける。










解放軍と帝国軍の最後の戦いが終わり、俺はキルキスが復旧したエルフの村へと招かれた。
も一緒の為躊躇したが、キルキスも、そしてシルビナも快くを受け入れてくれた。


だが、やはり人間の一生というのは、短い。


俺がいくつも年を取らないうちに、はこの世を去った。
はこのエルフの村で『人間の一生は短いからこそ輝いているのだ』という事を、
エルフ達に見せつけて旅立って行った。

俺は・・・自分がこのまま壊れてしまうかと思った・・・

そんな俺を救ったのは、今俺の腕の中で眠る、この子供。
俺とのたった一つの宝物だ。そう・・・エルフと人間の、ハーフ。
この子を守り、育てて行かなければならない。その事が、俺をここに留めた。

それと、もう一つは・・・





「どうしても、出て行くのですか?」
「ああ、もう決めたんだ。俺はこの子と旅に出るぜ。」

寂しそうなキルキスに、それでもきっぱりと言い放つ。

「でも・・・」

なおも止めようとするキルキスに、切ない笑みを浮かべて、

「ここに居たんじゃ、あいつが・・・が生まれ変わっても、出会えないだろ?」

そう言うと、奴も納得したのか、笑って見送ってくれた。



そう・・・あいつは約束したんだ。必ず生まれ変わると、そして俺を見つけると。
だから、俺もあいつが見付けやすいように、旅に出る。
いつか必ず、何処かで出会えると信じて・・・



この命が尽きるまで、俺はお前を捜し続ける。

・・・俺が愛するのは、生涯お前だけ・・・お前の魂だけだ。

だから早く、俺の所へ帰って来い。ずっと、お前だけを待ってるから・・・