【 私の居場所 】



私はあの日、様に拾われた。
あの日、あの瞬間から、私の恋は始まってしまったのかもしれない。
泣きたいくらいの苦しさと、切なさを伴って・・・





目の前で行われている光景が信じられなかった。
あの日、両親と共にちょっと遠出した私は、
不運な事に帝国軍と解放軍が戦闘している真っ只中に出てしまった。

私に気付き、振り下ろされる帝国兵の剣から、私を庇って父が切られ、
私に向かって放たれた矢から、私を庇って母が倒れた。

私の腕の中で、血が流れ冷たくなっていく両親の身体。
何がおこったのか分からなくて、目の前の光景が信じられなくて、呆然としていた私に再び、
帝国兵の剣が振り下ろされた時、強い力で腕を引かれ、温かい胸の中で守られていた。

それが、様だった。

あっさりと、私に襲い掛かってきていた帝国兵を倒し、両親の所へと行くグレミオさん達。
クレオさんが静かに首を左右に振ったのが合図だったかのように、
私は様の腕の中で、崩れるように気を失ってしまった。


目覚めた時、私はベッドの上だった。
見知らぬ天井と、心配そうに覗き込んでいたマリーさんの顔で、あれが現実だったのだと悟った。










「風邪ひくよ。」
「・・・さま・・・」

今は真夜中。眠れなくて外に出て、夜風にあたっていた私に様が声をかけてきた。

「何を考えていたんだ?」

優しく微笑んで問い掛けてくる様の顔が直視できなくて、そっと視線を逸らし、

「初めてここへ来た日の事・・・」
「・・・・・・」

呟くように応えた私の頭を、ポンポンと叩く。

・・・どうしてこんなに優しいの?



あの時、助けてもらっておきながらお礼も言わず、私は様に詰め寄った。

『何故、両親も助けてくれなかったの』と・・・

遠くから私達が襲われているのを見つけた様達は、すぐに助けに来てくれたのだと思う。
自分が解放軍のリーダーである事も省みず・・・今ならそれが分かる。
でも、あの時の私は、そんな事も知らず、ただ彼らを責めた。
なのに、解放軍の人達は、誰一人それに反発せず、全て黙って受け止めてくれた。



「ねぇ、どうしてグレミオさんでさえ、あの時私に何も言わなかったのかな?」

グレミオさんという人を知るにつれ、その疑問は日に日に強くなっていた。
様を責め続けていた私に、何故何も?それどころか・・・
あの辛そうな表情は今でも脳裏に焼き付いている。切ない、やるせない・・・今にも泣きそうな・・・
様はクスッと笑ったあと、私から視線を逸らし、

「あの時の君は、自分を責めていたからね。」

耳に届いた言葉に驚き、様を見上げる。でも、彼の視線は空を見上げていて、
私からは、その表情さえ見えない。

「心の中で、血の涙を流しながら自分を責め続けてる、そんなに一体誰が何を言えるの?」

ゆっくり私に視線を戻す様の瞳は、限りなく優しい。それは、他の人もそう・・・
ストレートに示してくれる人もいれば、ぶっきらぼうな人もいる。
でも、共通しているのは、上辺だけの優しさじゃなくて、心に響いてくるような優しさだって事。
約1名、本気で呆れ返った視線を送ってくる人もいるけど、その奥には、やっぱり優しさを感じる。
まぁ・・・本人には絶対に言えないけど・・・


私には、その皆の優しさが辛い・・・私からは何も返せないから・・・
一緒に戦う事も、皆の為に何かをする事も出来ない、そんな自分が、嫌。





「どうかした?」

俯いた私の顔を覗き込むように近付く様。
いきなりの至近距離にドキッとする。頬が熱い・・・私、今きっと真っ赤だ。
でも、こんな風に私が様の傍にいても・・・いいのかな・・・

「・・・?」

再び落ち込んだ私に、促すように様が名前を呼ぶ。有無を言わせない強い瞳。
その瞳に背中を押されるように、私は今まで思っていた事を話した。

何も出来ない自分が、このままここに・・・様の傍に居てもいいのか・・・と・・・



2人の間に沈黙が流れる。それが居た堪れなくて、部屋に戻ろうとした瞬間、

「良かった・・・」

そんな声が聞こえてきたかと思ったら、急に真っ暗・・・
いや、今は夜なんだから暗くて当たり前なんだけど、この背中に感じる2本の腕は何?
身体中で感じるこの温かさは・・・・・・・・・・

「・・・さま?」

抱き締められてるんだという事に思い当たって、焦って顔を上げたら、満面の笑顔。

・・・様?

「それは、がここに居たいと思ってるんだって、思ってもいいんだよね?」

そう問い掛けられて、私はコクンと頷く。
出て行きたいのなら、こんな事で悩んだりしない。

「だったら、はここに居ていいんだよ。いや、居なきゃ駄目なんだ。」
「でも!」

次の私の言葉を人差し指を唇に当てる事で制し、

「君が・・・が居なくなったら、僕は何処に帰ってくればいいの?」

思ってもいなかった様の言葉に、私の頭の中は?マークでいっぱいになる。
様が帰って来る場所は・・・皆がいるこの城・・・だよね?

「僕は、毎回の所に帰って来ているんだよ。」

身体中が熱くなる。私は都合の良い夢でも見てるの?
自然と瞳に涙が浮かぶ。その涙を様は唇で拭い、そしてそのまま私の唇にそれを重ねた。

「好きだよ、。君が居なくなったら、きっと僕は狂ってしまう。」

息も出来ないほど強く抱き締めてくれる様に、
私も、ギュッと抱きつく事で、自分の気持ちを伝える。





抱き締めている力を緩め、でも腕は私の腰に回したまま様はニコッと笑って、

「つまり、解放軍の命運は、が握ってるんだ。責任重大だね。」

そう言って、もう一度キスをした。・・・んだけど・・・様のこの笑顔って・・・



「何処にも行かないで・・・ここに居て・・・僕の手が届く場所に・・・」



不意に切なげな声が耳元で聞こえて、驚いて顔を上げる。

・・・不安気な瞳・・・

そんな顔見たくなくて、頬に軽くキスをおくり、

「ずっとここにいる。ずっと待ってるから・・・だから、私の所に絶対に戻ってきてね!」

強く抱き締められた腕の中で再び涙が溢れる。
私はもう1人じゃない。一度失ってしまったけど、私はもう一度見つける事ができた。


私の居場所・・・それは、あなたの腕の中・・・