【 ご機嫌ナナメ(『戦闘』その後 ) 】





ここ数日、ベックマンの様子がおかしい。

なんとなくだけど、怒ってる気がする・・・



元々、冷静沈着な彼は、他のクルー達と違って、喜怒哀楽を表に出すタイプじゃないんだけど、
やっぱり、怒ってる気がするんだよね。










あ〜あ、今日は何にもする気にならない。

シャンクスとヤソップにそう言ったら、

「そんな時は、やっても怪我するだけだ。今日はやめときな。」

と、あっさり本日の練習を休みにされた。
2人とも、妙に意味深な笑みを浮かべていたのは・・・気のせいか?





何にもする気にならない理由は分かってる。

ベックマンの所為だ!

どうしてこんなに気になるのか、自分でも分からないけど・・・
気になるものは、気になるんだから、仕方ない。

と、開き直っている自分に気付いて苦笑する。

・・・何なんだ、今の私は一体・・・





甲板に出て、マストに背中を預けて座り込む。
ここが、最近の私の定位置。
適度に風が当たって、気持ち良いの〜♪んで、つい寝ちゃう事も度々・・・

寝てる私に気付いたクルー達が、自分の服とかを上に掛けてくれるんだけど、
目が覚めて、誰のか分からなくて・・・毎回悩むんだよね。



他のクルー達は、こ〜んなに優しいのに、
シャンクス、ベックマン、ルウ、ヤソップに見付かった時は、蹴り起こされる。

蹴りだよ、蹴り!!!

それでも起きなかったら・・・ゲンコツが降ってくる・・・

『もう少し優しく起こしてくれてもいいじゃない!』って抗議したら、
『んな所で寝てるお前が悪い!』と、言われるだけ・・・

それはそうなんだけど、もう少し女扱いしてくれても、良いと思うんだけどなぁ・・・















ゴンッ!!!



・・・い、痛い・・・



どうやら、あのまま寝ちゃってたみたい。
それにしても、こんな起こし方をするのは・・・やっぱり・・・

「・・・ベックマン・・・」

目の前に立ってるベックマン。これは・・・また蹴りやがったな!
おかげで身体が傾いて・・・頭打ったじゃないか!

毎回だけどさ・・・痛いんだぞ!



「目が覚めたか?」



こ、こいつ・・・

「もう少し優しく起こしてくれてもいいじゃない!」

毎回言ってるこのセリフを、キッと睨みながら見上げて言う。
まぁ、ベックマンにしたら、全然迫力なんかないんだろうけど・・・ん?

「・・・・・・・・・・」

いつもの返事はなく、スッと視線を逸らし、小さく溜め息をつく。

え?な、何?

何だか急に不安になって、ベックマンのズボンを掴み、くいっと引っ張る。

「ベックマン・・・どうかした?」

見上げる私の頭に大きな手を乗せ、クシャッと撫でると、

「・・・何でもねぇよ。」

とだけ言い、立ち去ろうとする。



・・・なんか・・・やだ・・・



「・・・?」



ベックマンの背中を見た瞬間・・・思わず腕にしがみついちゃった・・・



驚き顔のベックマン。そりゃそうだろう・・・私だって自分で驚いてるもん。
でも、どうしても・・・離れたくなかった・・・

「どうした、?」

そう聞きながらも、無理に私の手を離そうとしないベックマンに、少し安心する。

「だって・・・」
「ん?」
「嫌だったんだもん・・・」
「何がだ?」
「ベックマンと離れるのが・・・」

うっ!わ、私、い、今・・・すっごく恥ずかしい事言わなかった?
顔に熱が集中してる・・・絶対に真っ赤だぁ〜〜〜!

「・・・はぁ〜・・・」

頭上から聞こえてきた盛大な溜め息。
もしかして・・・思いっきり呆れられちゃいました・・・?

恐る恐る顔を上げると・・・う、うわぁ・・・



思わず俯いてしまうほど、優しく見下ろしてるベックマン。

真っ赤になってる自分を自覚してるから、尚更顔を上げられない。



。」

名前を呼ばれても、恥ずかしくて顔を上げられないよ・・・
って思ってたら、いきなりの浮遊感。

「え?・・・ちょ、ちょっと、ベックマン?」

これって・・・お姫様抱っこって言うんじゃあ・・・

「ここはギャラリーが多すぎるからな。」

へ?・・・あ、ここって・・・甲板のど真ん中でした・・・

うわっ!シャンクスやヤソップやルウまで、ニヤニヤしながら見てる!

ふぇ〜ん!恥ずかしいよぉ〜〜〜!










ベックマンに抱きかかえられながら考える。
この腕の中は安心できる。シャンクス達と同じようにホッとしてる。

でも・・・それだけじゃない・・・

この感覚は・・・この感情は・・・



そっか、何時の間にかベックマンの事、好きになってたんだ。



だからあんなに気になったんだ。
・・・他の事が何も手につかなくなるほど・・・

シャンクス達は気付いてたんだな〜、だからあんな意味深な笑いを・・・あっ!
そういえば、何で機嫌が悪かったんだろ?でも今は、機嫌良いよな〜聞いてみようかな〜?
ん〜・・・その所為で、またご機嫌ナナメになったら嫌だしなぁ・・・

・・・・・どうしよう・・・・・










「フッ・・・どうした、百面相してるぞ。」

へ?あ、あれ?

何時の間にか私達は、船尾へと移動し、そこに座ったベックマンの膝の上に、
横向きに座らされている私。



・・・これも恥ずかしいのですが・・・



何より、間近にあるベックマンの顔にドキドキする。
だって、身長差が凄いから、いつもはこんな近くにベックマンの顔なんて・・・
たった今、気付いたばかりの自分の想いが相乗効果になって、

うわ〜ん!思考回路がストップしそうだぁ!

「あ、あのさ。」
「ん?」
「何で、最近機嫌が悪かったの?」
「・・・・・・・・・・」

・・・や、やっぱり、ヤバかったかなぁ・・・

「ベックマン?」
「・・・さぁな。」

あ・・・教えてくれない気か〜でも、否定しなかったって事は、
やっぱり機嫌悪かったって事だよね?まぁ、今は良いみたいだし、それでいいかな。
・・・それより、今思いっきり切実なのは・・・

「そろそろ・・・降ろしてくれない?」

この体勢は、本気で恥ずかしいんだってば!

「駄目だ。」

そんなぁ〜〜〜面白がってないかぁ?・・・って、え?ちょっと何?うわっ!

ベックマンの両腕が回ってきて、強く抱き締められ、

私の目の前には・・・ベックマンの胸が〜!!!



「お前は、俺を頼りにしてりゃいいんだ。」

・・・・・はい?今、何て仰いました?

顔が見たいのに、強く抱き締められてて、全然動かない。

頼りに・・・?してるよ・・・ずっと・・・でも、きっとそんな意味じゃない。

最近やった事と言えば・・・・・・・・・・剣や銃の練習?

ま、まさか・・・これって、やきもち?ベックマンが?あのベックマンが?

私がシャンクスやヤソップに教えてもらってたから?

今、ベックマンがどんな顔してるのか、想像もつかない・・・み、見たい〜〜〜!!!










それにしても、あんな風に言われたら、私だって自惚れちゃうよ?

ベックマンも私と同じ気持ちなのかなって。

今はまだ、言わないし、聞かない。やっぱり怖いから・・・

でもね、これからは、シャンクス達との練習の後、ここに来よう。

ベックマンの腕の中に・・・