【 願  い 】





私は、一体いつまでこの世界に・・・この船に・・・彼の傍に・・・

存在する事が出来るのだろうか・・・

そして、私がいなくなった時、彼はいつまで、私の事を覚えていてくれるのだろうか・・・





最近、海を眺めながら、こんな事ばかり考えてる。

「何考えてんだよ。」
「え?」

振り返っても誰もいない。その代わり、私の横で ドサッ と、座りこむ音がした。

珍しい・・・ゾロが起きてる。

「何だ?」
「・・・ゾロが起きてる・・・」
「どういう意味だよ!」

そういう意味だよ♪・・・それに、

「珍しいじゃない、起きてるゾロが稽古に誘わないなんて。」

そう、アラバスタで私の戦い方を見てから、人の顔を見ると、『ちょっと付き合え』こればっかり。
まあ、私としても、腕が鈍らないから、丁度良いんだけどね。

「そういう気分じゃねぇだろ。」
「誰が?」
「お前が。」

時々、ゾロのこういう所に、かなり驚かされる。

不器用なくせに、照れ屋なくせに、人の気持ちに、醸し出す雰囲気に、妙に敏感な奴。
でも、それを決して押し付けたりしない。



・・・優しい奴・・・



知っていたはずのそんな所に、気付いてしまった時から、私は願うようになっていた。

自分では、どうすることも出来ない、想いと共に・・・










「ねぇ、ゾロ・・・」
「ん?」
「私・・・いつまで、ここにいられんのかな・・・?」
「ああ?・・・?」

横で動く気配がして、私の頭に何かの感触?ついでに何かの力に引き寄せられて・・・

何で真っ暗?



って言うか・・・目の前にあるのは、ゾロの胸?



頭に感じてるのは、ゾロの大きな手?



一体、何事〜〜〜???



「ゾ、ゾロ?な、何・・・?」
「うるせぇ!」

いや・・・『うるせぇ』って言われても・・・こんな事されたら誰だって・・・

「・・・泣いてんじゃねぇよ。」


・・・え?泣いてる?誰が?

・・・私・・・が?


目頭に手をやると・・・確かに濡れてる・・・

「ご、ごめん!泣くつもりなんか・・・」
!」
「え?」

私の言葉を遮るように、ゾロが私の名を呼ぶ。
振り仰ごうとしたのに、それは頭に回された手によって阻止される。

何なのよ、一体・・・こういうのは・・・やめてよ・・・

・・・確かに俺は、お前より年下だ。」

へ?・・・そりゃあそうなんだけど・・・何を今更?

「けどな、もうちょっと・・・」
「ん?」
「頼ってくれてもいいんじゃねぇか?」
「っ!?」
「俺は、そんなに頼りねぇか?」
「そんな事・・・」

ないと続けようとして、顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、
切なそうな表情をして、顔を逸らすゾロ・・・





分かってる。これは、仲間だからだ・・・

ゾロが、こんな顔して、こんな風に言ってくれるのは、私を仲間だと思ってくれているから。

それはすごく嬉しいんだけど・・・真っ直ぐゾロの顔を見る事が出来ない。





「・・・・・・」

それでも、こんな風に言ってくれるゾロの気持ちを無げにはしたくないから、

「私ね・・・最近考えるんだ・・・」
「ん?」
「いつまでこの世界に・・・この船に、いられるのかなって・・・」

それ以上の想いは、心の奥で、そっと呟く。










「・・・・・・・・・・アホか。」

むっ!!!何よ、それ!

人が真剣に悩んでる事に対して『アホか』は、ないでしょうがぁ!

「お前は、何処にいてぇんだ?」
「え?」

私から手を離し、再び座り込んだゾロの横に、私も座る。

「何処だ?」
「・・・ここに、居たい・・・」

『ここ』というのが、この世界なのか。ゴーイングメリー号なのか、それとも、
ゾロの隣なのか・・・は、あえて考えないでおく。

「だったら、大丈夫だろ。」
「あのねぇ!こればっかりは、私の意思じゃどうしようもないのよ、相手は・・・」



「関係ねぇよ!」



「・・・ゾロ・・・」
「相手が誰であろうと、惚れた女を目の前で掻っ攫うような真似は絶対にさせね・・・ヤベ・・・」



・・・は?



今、何か・・・さらっと、とんでもないセリフを聞いたような気が・・・



呆然としながらゾロの方を向くと・・・おいおい、どこ向いてんだよ。

完全に私から顔を背けてるゾロだけど、赤くなってる耳が、
今のが私の都合の良い聞き間違いじゃないって事を教えてくれる。

「・・・ゾロ?」

そっと腕に触れると、観念したように溜め息をつき、
ゆっくりと私の方を振り返って、真っ直ぐ見つめ・・・

「・・・好きだ。」

たった一言だったけど、そのたった一言がどうしようもなく嬉しくて、また涙が・・・

「泣くなよ。」
「だって・・・」
「それで・・・お前は?」
「私もゾロが好き。」

私の言葉を聞いて、ホッとしたように笑い、ぎこちなく背中に回った腕が、強く抱き締めてくれる。

「ここに・・・ゾロの傍に居ても・・・いいのね?」
「ああ、何処にも行かさねぇ。」











ゾロの前へと移動し、彼に背中を預けて座る。

前に回された手に指を絡めて、独り言のように呟く。

「じゃあ・・・私が居なくなっても、ずっと覚えててくれるのかな・・・」

「ああ?まだんな事言ってやがんのか、お前は。」

「だって・・・」

「いいか、よく聞けよ。」

私を抱く腕に力をこめ、耳元に唇を寄せて、

「こういうのは、強く願ってる方が強ぇんだ。」

「え?」

「惚れたお前を手放したくねぇって気持ちは、例え相手が何であろうと負けねぇ。」

「ゾロ・・・」

「けどもしよ、それでもお前が何処かへ行っちまったら・・・」

そこで、私の身体をくるりと反転させて、真っ直ぐ見つめ、

「何処までだって捜しに行ってやる。例え、一生かかっても・・・な。」

「・・・本当に?」

「ああ、必ずお前をここに連れ戻す。だから、お前も忘れんじゃねぇぞ。」

「分かった!」

コクンと頷き、そのままゾロに抱きつくと、私の顎に指が掛かり、上を向かされ唇が重なる。

「お前の居場所は俺の腕ん中だけだ。よ〜く覚えとけ。」

それだけ言うと、私の返事を待たずにまた・・・今度は深く、長いキス・・・





願う事はただ1つ・・・私はずっと、あなたの傍にいたい・・・