【  温 も り  】





・・・眠れない・・・



昼間、甲板で寝ちゃったからかなぁ。

身体は疲れているはずなのに・・・私に眠りは訪れてくれない・・・



な〜んてね、自分を誤魔化しても仕方ない。

眠れない理由は分かってる。

シャンクスの・・・昼間のシャンクスの言葉の所為・・・





『今夜から、俺の腕の中で寝るか?』





ただ、からかわれただけだって分かってる。

あの言葉に、特別な意味がない事も・・・

そして・・・あの温もりが、私だけのものじゃない事も・・・

分かっているのに・・・それなのに・・・私の心が叫んでる。





あの温もりに、傍に居て欲しい・・・と。





目を閉じると、浮かんでくるのはシャンクスの顔だけ。

優しい笑顔。からかいを含んだ意地悪な顔。心配気な顔。そして・・・

私を心配し過ぎて、怒った顔。

出来れば気付きたくなかった、こんな気持ち。でも、気付いてしまった。





私は・・・シャンクスが好き・・・





「ああ!もう・・・ダメだ!」

ベッドに横になってても眠れない。それどころか、切なくなってくるばっかり・・・

ちょっと甲板にでも出てみようかな。

少しは、この胸の中のもやもやが、すっきりするかもしれないしね。










毛布を自分の身体に巻きつけて、甲板に出てみる。



・・・・・さむっ!



昼間は心地良かった風なのに、今は肌を刺すように冷たい。

手摺に寄りかかって海を眺める。

・・・夜の黒い海・・・

吸い込まれそうな・・・水面にうつる月・・・

決して手の届かない存在。・・・まるで・・・










「・・・・・?」

え?・・・・・今の声?私の心が作り出した幻聴・・・?

恐る恐る振り返る。身体が震えているのが分かる。

この震えは、決して寒いからじゃない。



うそ・・・シャンクス・・・?



ゆっくりシャンクスが近付いてくる。私は、その姿をただ呆然と見つめてる。

だって・・・こんな事ってあるの?

泣きそうになるくらい、傍に居て欲しいと思ったその人が、

今、目の前にいるなんて・・・

どうしてシャンクスがここにいるのか聞きたい。聞きたいのに声が出ない。

そして目が離せない・・・少しでも逸らしたら、その姿が消えてしまいそうで・・・





「まだ、気分が悪いのか?」

頬に触れた温もりに、私の身体がビクッと震える。

ずっと・・・求めていた温もり・・・

?」

優しく私の名前を呼ぶ声に、涙が溢れそうになる。





「んっ!?」

え・・・な、何?私・・・今、シャンクスにキスされてる・・・?

口の中に入ってきた舌の感触に我に返り、逃げようとするけど、

それは許してもらえず、逆に絡め取られ、吸い上げられる。



頭の芯が痺れて・・・どうにかなってしまいそう・・・



シャンクスの腕の中で、眠れない理由を聞かれる。

でも・・・何て言えばいいのよぉ・・・

どう考えたって、誘ってるみたいじゃない・・・

「ん?」

優しく先を促されて、仕方なく、

「シャンクスが・・・あんな事言うから・・・」

それだけを伝える。これ以上は絶対に言えない!それに・・・

私の顔、今絶対に真っ赤だ!だって・・・身体中が熱い・・・





「今夜から、ずっと俺の腕の中で寝るか?」





っ!・・・シャンクス・・・

ずっと頭の中から離れなかった言葉を再び耳元で囁かれ、

もう私は、何も考えられなくなってしまいそう・・・その上、

「俺の部屋・・・来るか?」

そんな風に言われたら、もう頷く事しか出来なくて・・・










翌朝、シャンクスの腕の中で目覚めた私に、

「愛してるぜ、俺の。・・・もう、離さねぇ・・・」

痛いほど強く抱き締められ、甘いキスと一緒にくれた言葉。

涙が出るほど嬉しかったから、私もあなたに伝えます。

「私も、あなたが好きです。」

・・・・・と。





きっとこれは、水面の月に手が届いた瞬間。

・・・私は、温もりを手に入れた。何よりも欲しかった、貴方の心を・・・