『いてくれてありがとう』



・・・眠れない・・・



最近、布団の中に潜り込んでも眠れない日がある。

それは、決まってこんな静かな夜。










「ダメだ・・・やっぱり眠れない・・・」

あまりここでゴソゴソやってたら、折角寝ているナミやロビンを起こしちゃうしなぁ。
特にロビンは、気配に敏感だしね。

何度も起こしちゃってるもんね・・・流石に悪いと思うし・・・よしっ!



そ〜っとベッドから起き出して、音を立てないように注意しながら部屋から出て行こうとしたら・・・



「また、眠れないのね。」

・・・遅かったか・・・

「ごめんロビン、起こしちゃったみたいだね。」
「・・・・・」

ロビンは、ただ黙って私を見つめてる・・・優しい瞳。
この瞳にホッとしてる自分を確かに感じてるのに、まだ何かが・・・

「ちょっと風にあたってくるだけだから、大丈夫よ。」

『心配しないで』という思いを込めてにっこり笑う。
でもそれは、口にはしない。無理だって分かってるから。
私が逆の立場でも、そんな事言ってほしくないし・・・ね。

「風邪・・・ひかないようにね。」
「うん、ありがと。」

再び布団の中へと入るロビンを確認して、部屋を出た。















・・・・・寒っ!



毛布でも持って来れば良かったかなぁ・・・
でも今から戻ったら、またロビンを起こしちゃうし・・・今度はナミまで起こしちゃうかも・・・

それは・・・後が恐いって・・・

ん〜マストの先には見張り番。今日の見張りはウソップのはず・・・
毛布ぶんどりに上がってやろうかしら・・・



ちゃん!?」
「え?」

バサッ!

・・・・・何?

いきなり頭から何かを被せられて、驚いて振り返ったら、

「サンジ?」

・・・何だか、怒っていらっしゃる?

「こんな時間にそんな薄着で!風邪でもひいたらどうするんだ!」

「え?え?え?」

そのまま手を掴まれて、キッチンへと強制連行。

・・・何なんだ、一体・・・















サンジまだ起きてたんだ。明日の朝食の下準備かな。

「はい、どうぞ。」

コトンと目の前に置かれるマグカップ。

「ありがとう。」

そっと手にとって感触を確かめる。これは、私専用のマグカップ。

「それで、どうかしたのかい?」

そう問い掛けながら、今日は私の横に座るんだね。いつもは正面に座るくせに・・・
でも、今日はこの方がありがたい。

ちゃん?」
「え?あ、ごめん!何でもないよ。ちょっと目が覚めちゃってね。」
「違うだろ?」
「っ!?・・・サンジ?」

私の言葉を遮るようなサンジの否定の声。
見上げた私の目に映ったのは、優しい・・・それでいて有無を言わせない強さの篭った瞳。
この瞳に弱いんだよねぇ・・・だから正面に座らないでくれて助かったって思ってたのに・・・
こんなに至近距離で見せられたんじゃ、逆効果じゃないか。

「ねぇちゃん・・・話す事で見えてくるモノもあるかもしれないだろ?」
「サンジ・・・どうして?」

サンジの言葉の中に『何かあったのか』という意味合いが含まれていない気がする。
という事は・・・私の中の問題だってことにまで気付かれてるの?

「そりゃあ気付くさ。たとえどんなに小さな変化でも、ちゃんの事だったら俺は気付くぜ。」

・・・流石プリンス・・・その名は伊達じゃないんだねぇ・・・
いつものリップサービスが、今はちょっと嬉しくて、そして切ないんだよね。

「あ〜ちゃん・・・誤解してないか?」
「・・・誤解?」
「悪いが、これはちゃん限定なんでね。」
「・・・限定?」
「そう。惚れた相手の小さな変化に、気付かないような男に見えるかい?」
「そりゃあ・・・・・は?」

サンジ?今、何て言った?

惚れた相手?誰が?誰の?

・・・えぇ!?!?!?





「その様子だと、全く気付いちゃいなかった?」
「うん・・・全く・・・」

だってサンジって誰にでも優しいし、私を特別扱いした事なんてなかったじゃない。

「気付かれてねぇ確信はあったぜ。これからも気付かせない自信もな。」
「サンジ・・・」
「同じ船にこれからも乗り続ける以上、必要最低限のルールだろ?」
「まぁ・・・ね。」

私も同じように思っていたから・・・それは、分かる。

見上げた私に、フッと切なげに微笑んで視線を逸らす。

「けどな・・・ああいうのは、ダメだ・・・」
「ああいうの?」
「あんな風に、夜の甲板に1人で佇むのは反則だぜ。」
「・・・・・」
「ここに俺が居るのに!って叫びたくなる。」
「今の・・・か。」
「そう・・・抱き締めて、頭より先に身体と心に俺という存在を感じさせてぇ・・・ってな。」

・・・なんか私・・・今、凄い事を言われてないか?

「例え君が誰を好きでも・・・」

へ?誰をって・・・

「それって、私がサンジの事を好きなのには、気付いてな・・・あっ!」
「え?」

い、今・・・私ってば、思わず何か言ってしまいましたぁ???



って!人がパニクッてる間に、いつの間にかサンジの腕が私の腰に回ってるし!
さっきまで微妙に空いてた、サンジと私の隙間がなくなってるぞ〜

こ、これって・・・抱き寄せられてる!?

「あ、あの・・・サンジ?」
ちゃん・・・」
「っ!?」

耳元で少し掠れたサンジの声がして、私の身体が自然にビクッと震える。
体温がどんどん上昇している気がする。

・・・身体中が熱いよ・・・












「君の傍には、いつだって俺がいるぜ。」

・・・サンジ?

「俺が、オールブルーを見付ける時、君は俺の隣に立ってなきゃいけねぇんだ。」

これって・・・

「だから、ちゃんはこの船に乗ってるし、これからも乗ってなきゃいけねぇ。」
「っ!?・・・サンジ・・・知って・・・?」

私が眠れなかったのは、この船に乗ってる理由が見つからなかったから。
皆のように夢があるわけでもない私に・・・この船に乗ってる理由があるのかって・・・

そんな風に考えだすと止らなくて、特にこんな静かな夜はそんな思いに囚われて眠れなくなってた。

こんな、私の個人的な苦しみにまで気付いててくれてたの・・・?



涙が溢れてくる・・・止らない・・・

悩んでる間は、どんなに苦しくても涙だけは出てこなかったのに・・・なのに・・・

サンジの腕が背中に回り、強く抱き締めてくれる。
その胸が、『ここで泣いてもいいんだよ』って言ってくれてるようで・・・



まだ自分の中で、完全に納得しているわけではないけど。
それでも、これからは独りで泣かせてはくれないみたいだから。

彼と一緒に探してみようと思う。

サンジ・・・いてくれてありがとう。