【後悔出来ない想い】 「先輩、お願いします!」 朝、校門を入った所で、は朋香と桜乃に捕まった。 正確には『朋香に』捕まったという感じだったが・・・ 人気の少ない場所へと連れて行かれ、いきなり頭を下げる朋香に、困惑する。 「と、朋香ちゃん?どうしたの?」 焦るを、頭を下げた状態で上目遣いに見上げる朋香と、 その後ろで、恥ずかしそうに俯く桜乃。 「私達・・・リョーマ様と遊びに行きたいんです!」 「・・・・・・・・・・はぁ?」 「ぷくくくっっ」 「・・・・・菊ちゃん。」 「それで、結局何だったの?」 教室に入ってくるなり、頭を抱え込んでしまったに、 心配気に声を掛けた菊丸と不二だったが、話を聞くにつれ笑いが込み上げてくる。 聞かなくても大体想像はつくが、一応先を促す不二。 「ん〜〜〜自分達が誘っても、絶対来てくれないからって。」 「まぁ、そうだろうね。」 はっきり言う不二を、ちょっと睨み、 「だからね、6人で遊びに行きませんか?って。」 「「 6 人 ? ? 」」 きょとんとして、顔を見合わせる菊丸と不二に、にっこり笑ってが伝える。 「そ。菊ちゃんと不二とリョーマ君と、朋香ちゃんと桜乃ちゃんと私・・・の6人。」 「なるほどね。」 一瞬の間の後、クスクス笑い出す不二と、 「つまり、俺達におチビを誘ってくれって事なのかにゃ?」 覗き込みながら訊ねる菊丸に、コクンと頷く。 「分かったよ。そのかわり、この貸しは高くつくからね、。」 にっこり笑ってそう宣言した後、自分の席へと戻る不二の後ろ姿を見つめながら、 「・・・これって、私の借りなの?」 「・・・さぁ?」 再び頭を抱え込むに、『ご愁傷様』と手を合わせる菊丸だった。 本当にこれで良かったのかなぁ・・・ きっと今頃は、菊ちゃんか不二がリョーマ君を誘ってる。 一緒に遊びに行けるのは嬉しいけど・・・でも・・・ あの子達に協力なんて・・・出来るの? 目の前で仲良さそうに、楽しそうにしてるあの子達を見て、平気でいられる? ・・・・・きっと・・・無理・・・・・ 私も、リョーマ君が好きなんだもの・・・ 「・・・。」 1人で教室の窓際の席に座り、ボーっと外を眺めていたは、 突然声を掛けられ、ビクッと身体を震わせ、声がした方を振り返る。 「不二・・・?」 「伝えてきたよ。」 「あ・・・うん・・・」 入口の所に立っている不二は、教室の中へと入ってこようとはせず、 ただ、そこから真っ直ぐを見つめている。 まだ何か言いたげなその様子に、 「な、何?どうか・・・」 言いかけたの言葉を遮るように、不二が口を開く。 「本当に・・・いいの?」 「っ!?」 真っ直ぐ見つめてくる不二から、逃げるように顔を逸らす。 「君が後悔しないと言い切れるのなら・・・僕は何も言わないけどね。」 それだけ言うと、去って行く不二。 の頭の中で、不二の言葉がこだまする。 ― 後悔しないと言い切れるのなら ― 「無理だよ不二・・・私、絶対後悔する・・・」 そう呟くとパッと顔を上げ、教室を飛び出して行く。 廊下を歩いていた不二を追い抜かしざま振り返り、 「ありがとう、不二!」 笑顔で走り去って行く。 その耳には、遠ざかって行く背中を笑顔で見つめながら、 「どういたしまして。・・・これで、もう1つ貸しだね。」 などと言っている不二の声は、届かなかった。 遠くから見ていた菊丸だけが気付き、に手を合わせるのだった。 「・・・ご愁傷様にゃ・・・」 「どうしよう・・・」 真っ直ぐテニスコートへ向かっただったが、今は練習中。 1年のリョーマを呼び出せるはずもない。 「休憩中とかじゃあ・・・目立つしなぁ・・・」 少し離れた所で悩むに、1つの影が近付く。 「先輩。」 「リョ、リョーマ君?練習は?」 突然目の前に現れた想い人に、慌てふためく。 「今、休憩中っスから。」 「ああ、そうなんだ・・・」 言わなくてはいけないと思いつつ、 真っ直ぐに見つめてくるリョーマの視線が恥ずかしくて、どうしても俯いてしまう。 その顔は真っ赤だ。 意を決して、パッと顔を上げたに、 それまで、その様子をただ黙って見ていたリョーマが、 「今日、待ってて。」 それだけ言うと、コートへ戻ろうとする。 「え?ちょっと、リョーマ君?」 呼び止めたに、帽子を目深にかぶり、 「・・・一緒に帰ろう。」 走り去って行くリョーマを、ただ呆然と見つめる。 「あの2人・・・どんな誘い方したの?」 言われた通り、リョーマの部活が終わるのを待ち、一緒に帰る2人。 「あのね・・・菊ちゃんと不二から・・・聞いた?」 恐る恐る訊ねるに、コクンと頷くリョーマ。その顔は何故か、不機嫌に見える。 「それでね、6人でって事だったんだけど・・・」 「・・・何?」 立ち止まったを、振り返るリョーマ。 「それはキャンセルして、2人で行きたいの!」 一気に言ったが、恐くて、恥ずかしくて、顔を上げる事が出来ない。 そんなに、リョーマがゆっくり近付く。そして・・・ の唇に、リョーマのそれが軽く触れた。 「リョ、リョーマ君!?」 真っ赤になって口を押えるに、 「罰!」 とだけ言い、歩き出すリョーマ。 「罰って何よ・・・?」 真っ赤な顔のまま、リョーマに追いつき、少し睨みながら聞くに、 「俺、フラレたかと思ったから・・・」 そう言うと、ピタッと立ち止まり、驚いて同じく立ち止まったを真っ直ぐ見つめて告げる。 「俺は、先輩が好きです。・・・先輩は?」 普段は見られない、少し不安気なリョーマの顔に、『知ってるくせに』と思いながらも、 「私も、リョーマ君が好きです。」 そう告げた。 その瞬間、嬉しそうなとびっきりの笑顔になったリョーマに、 の頬は赤くなるばかりだった。 「明日、朋香ちゃん達に謝らなきゃなぁ・・・」 俯きながら呟くの手を、リョーマがグイッと引っ張る。 「!」 「えっ、何?」 名前を呼び捨てにされた事に、少し顔を赤らめながら顔を上げたの耳元で、 「それは明日!今は、俺の事だけ考えてて。」 そんな風に囁かれては、他の事など一切考えられない。 『これからもずっと、この我侭な王子様には、適わないんだろうな。』 などという、確信めいたものをどこかで感じながら・・・ |