【指 定 席】





「えっ うそ!あの本が?」
「うん。昨日見たよ。今日の放課後にでも、行ってみれば?」



・・・・・放課後かぁ・・・・・



今日の朝、私がずっと探してた本が、図書室にあったと友達から教えてもらった。
すっごく読みたかった本だったから、借りに行きたいんだけど・・・

放課後はなぁ・・・行きたい場所が・・・見ていたい人がいるから・・・

・・・・・どうしよう・・・・・










お昼休み、お弁当を食べながらも、頭の中はその事で一杯。
その人と本を秤にかけたら、どうしてもその人の方に傾いちゃう。

ちゃん、どうしたの?」
「・・・うん。」

返事になっていない事は、自分でも分かっているんだけど、

「放課後、図書室に行くなら、付き合うよ?」
「・・・ん〜〜〜」

心配そうに私を見てる事にも、気付いてるんだけど、

ちゃん・・・テニス部?」
「うっ・・・うん・・・」

真っ赤な顔をして俯く私に、友達の盛大な溜め息が降ってくる。

「・・・・・1日も嫌なわけ?」

そ、そんなに呆れた顔しなくてもいいじゃない〜〜〜!

「じゃ、今から行って来れば?」
「え?」

・・・図書室って、お昼休みも開いてるんだっけ?





「ホントだ・・・開いてる・・・」
『とりあえず、行ってみれば?』という言葉に促され、図書室に来てみれば・・・良かった!
これで放課後は、いつものあの場所からテニス部の練習を・・・

・・・不二先輩を見る事が出来る。

不二先輩は、きっと私の事なんて知らない。それでも、
姿が見ていられるだけで・・・嬉しいから・・・





えっと・・・確か、この辺りで見たって・・・
友達から聞いた場所を、念入りに探してみる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あっ・・・あった!」

その本を手に取り、中も確かめてみる。
うん、間違いない。探してた本だ〜嬉しいな♪
お昼休みが終わるまで、まだ時間があるし、少し読んで行こうかな。



窓際にある席に座って、何気なく外を見る。

「えっ、うそ!?」

・・・テニスコート・・・

いつもは、他の女の子達の身体の隙間から見てたテニスコートが、
何にも遮るもののない状態で、今私の目の前にある。



放課後も、来ようかな・・・










いつも見ていた場所から比べると、凄く遠いけど、
何にも邪魔されないで、見つめ続ける事が出来るから・・・だから・・・

今日からこの場所が、私の指定席になった。










「あっ・・・練習終わったみたい。不二先輩、お疲れ様!」

小声で呟いて、私も席を立つ。
さてと、私も帰ろ〜っと。





「あれ、?」

校門の所で呼びとめられる。この声は・・・

「桃城君、お疲れ様!」
「おう!」

桃城君とは同じクラス。とは言っても、挨拶する程度だけどね。
その横にいるのは、確か・・・

「えっと、越前君だよね?君もお疲れ様。」
「ども・・・」

ペコッと頭を下げる越前君。確かに可愛いかも・・・

「桃先輩。」
「わ〜ってるよ。」

越前君が桃城君をつついてる。一体何事?

、お前さぁ・・・」

私の右側に立ち、一緒に歩きながら話し掛けてくるのはいいんだけど、
何で越前君は、私の左側に立ってるの?
どうして私は、この2人に挟まれてるの?
ファンの子に見付かりませんように・・・

「最近、テニス部の練習、見てないっスよね?」



・・・・・はい?



思わず立ち止まった私を、2人が振り返る。

「だけどよぉ、この時間まで学校に居るって事は・・・だ。」
「何処からか、見てるって事っスよね?」

ちょ、ちょっと待ってよ・・・

、隠し事はいけねぇなあ、いけねぇよ。」

いや・・・隠し事って・・・

「で、何処から見てるんっスか、先輩?」





・・・しっかり白状させられました・・・このコンビ、嫌いだぁ!!!





昨日のあの2人、一体何だったんだろ?
2人とも妙に真剣だったから、つい『図書室から見てます』って言っちゃったけど、
どうして私が、ずっと見てたって知ってたんだろう・・・

桃城君は同じクラスだから、偶然見つけてって事もあるだろうけど、越前君は?
それに彼、私の事『先輩』って呼んだ・・・
桃城君は『』って呼んでたのに・・・何で、私の名前を知ってたんだろう?
昨日はそんな事には気付きもしなかったけど、冷静に考えると、変だよね・・・

今日もこうして、図書室から見ててもいいのかな・・・不二先輩を・・・あれ?

不二先輩・・・いない・・・

「今日は遅刻なのかな?」



「誰の事を言ってるのかな?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?い、今の声って・・・?



「でも、本当に図書室に居たんだね。」

恐る恐る振り返ると、目の前に立っていたのは、やっぱり、

「ふ、不二先輩!?」
「しっ!ここは図書室だよ、静かにね。」

人差し指を口に当て、微笑んでる不二先輩に、思わず見惚れてしまう・・・けど、
そんな場合じゃないってば!!!何で不二先輩が?

「先輩、部活は?」
「ん?行くよ。」

そう言いながらも、何故か私の正面の席に座る。
目が合った気がして、思わず俯いてしまう。
それなのに、不二先輩の視線を感じて、どんどん身体が熱くなっていく。
私、今絶対真っ赤だ!恥ずかしいよぉ〜!

「ねぇ、ここから・・・誰を見ていたの?」
「え?」

顔を上げた私から目を逸らすように、外へと視線を向ける不二先輩。
それにつられるように、私も外を見る。そこには、いつも見ていたテニスコート。
皆練習してるけど・・・私が見ていたい人の姿は・・・ない。
だから、ゆっくり視線を戻したら、



・・・・・不二先輩・・・・・?



試合中にしか見た事なかった、不二先輩の真剣な顔。
初めて間近で見る、不二先輩の瞳。
惹き込まれそうな錯覚に陥りそうになる・・・この瞳から目を逸らす事が出来ない。

ちゃん・・・」

・・・え?今、私の名前・・・?

「・・・不二先輩?」
「何?」

優しく聞き返されたから、次の言葉がすんなり出てくる。

「私の名前・・・知って・・・?」
 ちゃんでしょ?」

『名前を知っててくれた』ただそれだけの事が、泣きそうになるくらい嬉しい。
私・・・本当にこの人の事、好きなんだなぁ・・・

ちゃん、君が見てたのは・・・僕?」
「っ!?」

そ、そんな事・・・本人に言えるわけないです〜〜〜!
再び真っ赤になってると思うけど、こんなんじゃ、先輩にバレテると思うけど、
それでも、何故か今度は、俯く事が出来なくて・・・
ただ・・・不二先輩を見つめる事しか出来なくて・・・
そうしたら、先輩はクスッと笑って、

「こういう聞き方は、フェアじゃないよね。」

そう呟くと席を立ち、私の横へと移動して、耳元に唇を寄せ、

「僕は、ちゃんが好きだよ。君は?」

・・・・・・・・・・不二先輩?今、何て?

聞き返したいのに、声が出ない。
でも、優しく見つめてくれる先輩の瞳が、私の聞き間違いじゃないと教えてくれる。

「私も・・・不二先輩が好きです・・・」

溢れそうになる涙を必死に留めながら告げると、
不二先輩がそっと抱き締めてくれた。

「やっと捕まえた・・・僕の・・・」





これからも、私はこの指定席から不二先輩を見つめる。
でも、私の指定席は、ここだけじゃなくなった。

「これからは、毎日一緒に帰ろうね。」

この言葉と共に、あなたの隣も、私の指定席。