【 宿命 J(同盟軍編)】 アイリ達も連れて、さっきの小屋に戻ると、タイ・ホーとヤム・クーは船の準備をしてくれていた。 思った通り、タイ・ホーがやると言えば、ヤム・クーも文句を言いながらも付き合ってくれる。 「悪いね、ヤム・クー。ありがと。」 「いや・・・・・」 「ん?」 「俺、名乗ったか?」 ギクッ! 「え?あ、いや・・・その・・・あっ!そうそう、さっきタイ・ホーがそう呼んでたから。」 「ああ・・・」 ヤバイヤバイ・・・いくら前回の108星だと言っても・・・ねぇ。 何とか納得してくれたみたいだから、ほっとこう。これ以上はどっちとも、絡むのやめ! そうして着いたのは、クスクスの街。・・・と言うらしい。 ここから南に行った所にサウスウィンドゥはあるんだって、街の人が教えてくれた。 タイ・ホー、ヤム・クーにお礼を言って別れ、私達は南を目指す。 やっと・・・あと少しで、フリック達と合流出来る。 「さん、あれ!」 「うん・・・」 前方に見える大きな街。あれが・・・サウスウィンドゥ・・・ 良かった・・・無事辿り着けるみたい・・・いいかげん、体力限界だったのよ・・・ 「おう、お前ら!」 街に入った途端聞こえてきた、聞き覚えのあるでかい声。 ・・・ビクトールだぁ・・・ 「あれ、ジョウイはどうした?」 ビクトールのその言葉に、私達3人の身体がビクッと震える。 この2人に説明させるのは、やっぱ酷だよね・・・ 「あのね、ビクトール・・・」 「さん!」 「・・・?」 「僕が話すよ。」 「・・・・・分かった。」 が話してる間、ビクトールは黙って聞いていた。 私の事を話せるくらいだから、アナベルとビクトールの付き合いは長いと思うし、 決して表面だけではなかったと思う。 ビクトールの肩をポンッと叩くと、ゆっくり振り返る。 「私って・・・良い女なんだって?」 その言葉にフッと笑い、私の頭をくしゃっと撫でて、 「ああ・・・一緒に飲もうぜ。」 「仕方ないなぁ、付き合ってあ・げ・る・よ。」 「そりゃどうも。」 顔を見合わせて笑い、フリックが待っているらしい酒場へと移動した。 「え〜っ!?今から市長に会いに行く!?」 「おう!」 「行ってらっしゃい。」 「おいっ!」 「どうして私も一緒に行かなきゃいけないのよ!」 「当たり前だろうが!」 「だから、どうして!!!」 ビクトールと私の攻防を、面白そうに眺めていたフリックまで、 「とナナミも行くんだぜ。」 「だから!あんた達だけでいいでしょ!私は疲れてるのよ!」 「俺らだって、さっき着いたばかりだ。」 「あんた達と一緒にするな!」 「ああ、うるせぇ・・・担いででも連れてくぞ!」 うっ・・・こいつらならやりかねん・・・ こいつらの肩に担がれて、市庁舎まで? 絶対に嫌だ・・・ 本当に・・・どうして私まで一緒に行かなくちゃいけないのよ・・・ あんまり同盟軍の中心には入り込みたくないぞ。 私はこの世界の人間じゃないんだから、基本的には傍観者でいようと思ってるのに。 まぁ、と一緒に行動してる以上、無理な話かもしれないけどね。 「分かった・・・行くよ・・・」 サウスウィンドゥの市長室。目の前には、市長のグランマイヤーさん。 その人の口から出た街の名前。 ノースウィンドゥ・・・それって、確か・・・ 「ノースウィンドゥは、君の故郷だったな、ビクトール。」 「ええ、まぁ・・・」 やっぱり・・・と、言う事は・・・吸血鬼ネクロードに・・・ その街で、若い女性の行方不明事件だなんて・・・嫌な符合だ・・・でも・・・ 市庁舎から戻る途中、 「私も行きたいな。」 「あ?」 「ノースウィンドゥ。」 「・・・何もないぜ?」 「でも、手を合わせたいし。」 「ああ、俺もだな。」 ビクトールと私の会話に、フリックも交ざってくる。考える事は一緒って事かな。 「・・・ああ。」 スッとビクトールが顔を背けたのを見て、フリックと顔を見合わせフフッと笑った。 って、さっきまでは言ってたんだけど〜〜〜こりゃ、フリックは無理かな。 宿に戻ってアイリ達に説明すると、アイリは一緒に行くと言い、そしてリィナは行かないと言った。 んで・・・フリックに自分の相手をしろ・・・と。 フリック・・・ご愁傷様。・・・こいつ、こういうの苦手だもんなぁ・・・ 「はどうする?」 「行くよ、さっき言ったでしょ。」 「!行くのか!?」 ・・・フリックさん、んな、情けない顔するなよ・・・ 「それじゃ、皆気を付けてね。」 「さんも気を付けてね!」 私の手をガシッと握って真剣に言うナナミ・・・何を考えてんの、この子は・・・ 結局私は、フリックの無言の懇願に負けて、残る事にした。 それに、一緒にノースウィンドゥに行く事になってる、グランマイヤー市長の部下・・・かな? の、フリードさんが『女性の行方不明事件が頻発してるから残った方が良い』って言ったから。 ナナミはいいのか?とも思ったけど、本当に何かあるのなら、私は足手まといにしかならないからね。 終わってからでも遅くはないから。ビクトールの故郷の人達のお墓に手を合わせる事は・・・ さてと・・・ 「フリック。」 「ん?」 「聞きたい事、あるんじゃないの?」 「・・・ああ。」 リィナの相手をさせられ、ものすっご〜〜〜く情けなかった顔が、一瞬で引き締まる。 やっぱりね、もナナミもいない場所で、聞きたかったわけだ。 フリックが、私を残したかった本当の理由は多分、こっち。 まぁ、リィナの事も多少・・・いや、かなりあるとは思うけどね。 「ごめんねリィナ、フリック借りるよ。」 「どうぞ。さんには適いませんから、お返ししますわ。」 ・・・・・・・・・・は? フリックと2人、目が点になる。今・・・聞き捨てならない言葉を聞いたような・・・ 「リィナ・・・何か勘違いしてない?」 「ふふふ。」 リィナさん・・・その微笑みの怪しさは・・・一体・・・何? とりあえず、フリックと2人リィナ達と離れた席に移動する。 大きな声で話せる内容じゃないから、隣り合わせに座って・・・・・ この状態って、リィナの誤解を思いっきり深めてる気がするのは、気のせいか? でも、今はそんな事より、 「ジョウイの事でしょ?」 「ああ・・・何があったんだ?」 フリックはビクトールからの又聞きだから、いまいち把握出来てないみたい。 なので、私は自分が見たままを話した。 「ジョウイが・・・アナベル市長を・・・」 「うん・・・」 あの時のジョウイの顔が思い出される。辛そうな・・・悲しそうな・・・でも、何かを決意した目。 「悪かったな。」 「へ?」 ど〜して、フリックから謝罪の言葉が出てくるわけ? 「止められなくて・・・さ。」 おいおい・・・ 確かに、私はあんた達に相談したかもしれないけど、決めたのはジョウイ。 それに、気付いてて止められなかったのは、私も同じ。 フリックよりも近い場所にいただけ、私の方が・・・ フリックの肩にコツンと頭を当て、 「大丈夫、私はジョウイを信じてるから・・・」 「・・・」 それにしても・・・ 「ねぇ、何だか外が騒がしくない?」 「そうだな。ちょっと見てく・・・・・」 ん?・・・フリック?何で固まって・・・・・ゲッ! リィナ〜〜〜!その妙〜に楽しげで、意味深な笑みは何だ! って、そんな事より!!! 「フリック!」 「あ、ああ・・・ここで待ってろよ。」 「了解。」 外へ飛び出して行くフリックを見送り、リィナの横に座る。 「・・・リィナ?」 「ふふ、何でしょう?」 「あんまりフリックを苛めてやるなよ。」 「あら、ふふふ。」 ふぅ・・・心の中でフリックに合掌。・・・頑張れよ・・・ 「!」 あ、帰って来た・・・フリック? 帰って来たフリックの顔を見て、私の身体に緊張が走る。何か・・・あったんだ・・・ 「何があったの?」 「ハイランド軍が攻めてきた。」 っ!? 「しかも、ソロン・ジーの軍だ。」 あ〜・・・ソロン・ジーとか言われても、分かりません。でも、正規軍って事・・・だよね多分。 「どうするの?」 「逃げるしかねぇだろ。」 だよねぇ・・・ 「ビクトール達と合流するって事?」 「ああ。グランマイヤー市長は全面降伏したようだ。時間が経てば出れなくなる。」 「分かった。じゃあすぐに・・・」 「どうした?」 「フリックってさぁ・・・王国軍に面割れてんじゃないの?」 「うっ・・・」 と言っても、いくら混乱に乗じてでも、フリック抜きで逃げ出せるとは思えない。 「大丈夫ですわ。」 「リィナ?」 「奥様と子供が一緒ですもの。」 「「 は? 」」 思わずフリックとハモる。 「フリックさんの、奥様と、子供。」 リィナの指が、最初にフリックを差して、次に私を、そしてピリカちゃんに・・・ 「「 はぁ? 」」 それって、つまり・・・ 「そして、私がさんの妹で、ボルガンが・・・」 その設定で逃げるって事か? 「兎に角、今は時間がない。急ぐぞ!」 「うん!ピリカちゃんおいで!」 呼んだと同時に駆け寄ってきたその身体を抱き上げる。 「大丈夫だからね。」 ニコッと笑うと、コクンと頷いて抱き付いてくる。少し・・・震えてる・・・ 「、俺が連れて行く。」 「へ?」 「お前が抱いてたんじゃ、遅くなるだろ。」 確かにそれはそうなんだけど・・・ 「ピリカちゃん。」 私の声に顔を上げ、フリックと私の顔を交互に見て、フリックへと手を伸ばす。 「行くぞ!」 全員が頷き、慎重に宿屋を出る。見咎められたら、確実にヤバイ。 「そうしてると、本当に親子のようね。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 後ろから聞こえてきたリィナの声は、今は無視、無視! |