【 偵 察 隊 】





「お、、こんな所にいたのか。」

酒場のカウンターに座り、レオナと談笑しながら軽いお酒を飲んでいたに、
フリックとビクトールが声をかける。

「こんな所で悪かったねぇ・・・」

ジロリと睨みつけるレオナに、『悪りぃ、悪りぃ。』とちっとも悪びれた様子のないビクトール。
それを呆れたように見ながら、

「それで、私に何か用だったの?」

フリックに尋ねる
『こんな所にいたのか。』と言う事は、探していたと思ったからだ。

「ああ、シュウの提案でな、明日から偵察に行く事になったんだ。」

やっぱりビクトールを呆れたように見ていたフリックが、視線をに向け応える。

「偵察?ふぅ〜ん・・・で?」

どうみても『それが私に何の関係があるの?』と言うような表情のに、フリックは苦笑しながら、

「お前も一緒に行ってくれないかと思ってな。」
「私も?」

きょとんと小首を傾げるに、『ああ。』と頷く。





フリック達とは、解放軍にいた頃からの付き合いだ。
は、解放軍の初期メンバーで、オデッサが最も信頼し、色々と相談していた程の女性だった。
故に、の力はフリック達が一番よく知っていたのだ。
頭は切れ、剣の腕は一流、しかも回復魔法まで使えるのだから、これ以上の適任者はいないだろう。
それに今回はあくまでも偵察なのだ。だったら、女性が一緒の方が何かと都合が良い。
ましてやの外見は、華奢で可愛らしい。
どこから見ても、いわゆる守ってあげたくなるタイプなのだ。
まぁ実際は・・・彼等でさえ助けられる時があるくらいなのだが。





「他には誰が行くの?当然、あなた達2人は行くのでしょう?」
「ああ、ビクトールと俺、とナナミと、それからマイクロトフが行く事になってる。」

メンバーを聞き(ふむ・・・確かに何だか偵察だと頼りないかも・・・)などと、
かなり失礼な事を考えていた時、酒場の扉が勢い良く開き、とナナミが顔を覗かせた。

「「あ!さ〜ん!」」

見事にハモリながら、に抱き付く2人。

「ねぇ、明日からの偵察にさんも一緒に来てくれるって本当?」

が問い掛け、横でナナミも嬉しそうにを見ている。
2人の、この期待に満ちた表情に勝てる人間は、この同盟軍にはあまりいない。
そして、それはも例外ではなく、

「そうみたいね。」

と、思わず頷いてしまう。
その様子を横でニヤニヤ笑いながら見ている、フリックとビクトールを軽く睨みつけていたに、
『わ〜い!』と2人がまた抱き付いてきた。兎に角一緒に行けるのが、本当に嬉しいようだ。
そんな2人を見ながら、大人達は苦笑し、そして少し安心するのだった。



同盟軍のリーダーという位置にいると、その姉ナナミ。
その2人が、の前でだけは、年相応の子供に戻る。
そんなとナナミがも可愛くて仕方がないのだ。
この2人を守る為ならば・・・と、同行を承諾したようなものだった。










翌日の出発時間を確認し、は部屋へと戻ってきていた。
あのまま酒場にいたら、出発の時間まで誰かさんに飲まされるかもしれないと思ったからだ。
まぁ、それはあながち間違ってはいないと思うが・・・

ベッドに横になり、目を閉じる。だが、眠りは訪れてはくれない。
疲れていないわけではないし、アルコールも入っている。
普段ならば、横になるとすぐに睡魔が襲ってくるはず・・・
しかし、の脳裏には、1人の男の顔が浮かぶ。

「・・・フリック・・・」

溜め息と共に出た名前。
は決して本人に悟られてはいけない想いを抱いていた。
その彼と、暫くの間行動を共にする。その事がから、眠りを奪っていた。










がベッドの上で溜め息をついたのと同じ頃、屋上ではフリックが空を見上げていた。
その表情がフッと優しく微笑み、懐から1本の短剣を取り出す。
そして、その柄の部分にそっと口付け、

「おやすみ・・・    ・・・」

そう呟いて、短剣を大事そうにまた懐へ戻して、部屋へと戻って行った。










そして、それよりもう少し前・・・・・

フリックとが出て行った酒場で、ビクトールがとナナミに何やら耳打ちしていた。
それを聞いた2人が、嬉しそうにそして楽しそうに、ついでに悪戯っぽく笑って頷いていた。
そんな3人を呆れたように眺めながらも、レオナも決して止めようとはせず、

「まぁ、頑張りな。」

と呟いた。その言葉は、一体誰に向けられていたのやら・・・










マイクロトフはというと・・・
翌日は朝早い。決して遅刻は許されないのだからと、既に爆睡状態だった。










翌早朝、6人は出発した。
それぞれの想いと、そして少々の企みを胸に秘めて・・・
(約1名、そんなものとは無縁の者もいるが・・・)










モンスターを倒し、経験値とお金を手に入れながら、目的地へと進む一行。
明日には、その町へ到着するであろうという日の夜、どのように町へ入るか話し合っていた。



「全員で一緒に行動するのは、ちょっと考えものじゃない?」

というの意見に、フリックが賛成する。

「俺もそう思うぜ。全員一緒じゃどうしても目立つ。」

今回はあくまでも偵察。故に、目立つ事は厳禁なのだ。ビクトールも頷きながら、

「だな。分かれた方が能率もいいしな、そうするか。」

マイクロトフに、意見を求めるかのように視線を送ると、彼は黙って頷いた。異存はないようだ。



「じゃあ・・・いくつに分かれる?」
「はい!私はと一緒がいい!」

の問い掛けを待ってました!とばかりにナナミが手を上げて主張する。
するとその横で、

「僕もナナミと一緒がいい。」

と、にっこり笑顔で、これまた主張する。2人ともまったく引くつもりはないようで、
だが、『2人だけではやはり不安だし、危険だ!』と、他の4人は視線で語り合う。
が『じゃ、私が・・・』と言い出す前に、

「じゃ、俺が一緒に行くとしますか・・・」

大げさに溜め息をつきながらのビクトール。それに対してむうっとした顔はするものの、
とナナミも、2人だけでは無理だろうと思っていたのか、それ以上は何も言わなかったし、
ビクトールも一緒なら大丈夫だろうと、も納得したのだった。
それよりも、男3人が一緒に行動した方がよっぽど・・・とも思っていたのだが・・・

と、いうわけで、とりあえず1組が決定した。



「あとは・・・お前達3人も二手に分かれた方がいいんじゃねぇか?」

ビクトールの言葉に『そうかなぁ?』と首を傾げるのはだけで、
フリックとマイクロトフは(俺達2人と、確かに目立つな・・・)と思ったので、
あっさりと、承諾した。

「じゃ、とフリックでいいんじゃねぇか?お前らの方が気心がしれてるしな。」
「ああ、そうだな。」

頷くフリック。
その隣で、複雑そうな表情を浮かべ、気付かれないように溜め息をつく
だがそれも一瞬の事で、すぐにいつもの顔に戻っていた。
切ない想いは、心の奥に閉じ込めて・・・



「でも、マイクは1人で大丈夫?」

心配そうに尋ねるに、安心させるように力強く頷くマイクロトフ。
それを横目で見ながら、フリックとビクトールは苦笑するしかなかった。
『子供じゃないんだから・・・』と。





「それじゃ、あとは設定ね。とナナミはそのまま姉弟でいいわよね?」

頷く2人を確認し、ビクトールに視線を移す。

「問題は、ビクトールよね・・・」

う〜んと唸るに、

「俺も兄貴じゃ、ダメなのか?」

と、首を傾げるビクトール。

「だって、お兄さんって感じじゃないわよ。どちらかと言えば、お父さ・・・・・っ!」

ハッと口に手を当て『ヤバイ!』という表情をするの隣で、思いっきり吹き出し、

「俺も同感だ!」

と、ニヤニヤ笑いながらビクトールを見るフリックと、俯いて肩を震わせているマイクロトフ。
ビクトールの両サイドでは、とナナミが、

「「お父さ〜ん♪」」

と言いながら、腕に抱き付いている始末。

「ごめん・・・」

笑いを堪えながら謝るに、

「まったく反省してねぇだろ・・・」

と、軽く睨むが、両腕に嬉しそうに抱き付いている姉弟を見て、溜め息つきながら、
その設定に、しぶしぶ納得したビクトールだった。



「じゃ、次はお前らだな・・・・・」

ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべて、自分達を見るビクトールに、
はイヤ〜な予感が全身を駆け巡る。

「お、俺達も兄妹でいいんじゃないか・・・?」

思わず後ろに下がりながらのフリックに、ビシッと指を突き付け、

「この2人なら兎も角、お前らぐらいの年齢の奴が兄妹で一緒に行動するわけねぇだろ!」

言い切るビクトール。
『いると思うけど・・・』と、小声で反論してみるが、それは聞こえない振りをされてしまった。

「じゃ、どうすんだよ。」

半ば投げやりに、問い掛けるフリックに、ビクトールは楽しそうに答えた。

「お前らの設定は恋人だ!」

その言葉に暫く間があき、固まっていたフリックとは、ハッと我に返ると一気に真っ赤になった。

「な、なんで恋人になる必要があるんだよ!」

両手を口に当て、何も言えない状態の。そんなの横で、フリックが抗議する・・・が・・・

「一緒に行動するんだぜ。それが一番違和感ねぇだろ。」

真顔でそう言われては、次の言葉は出てこない。だが、
((絶対にさっきの仕返しだ!!!))と、2人とも確信していた。

「決定だな。明日も早い、そろそろ寝ようぜ。」





立ち上がり、寝る準備を始めたフリックとを見ながら、
ビクトール、、ナナミの3人は、顔を見合わせニヤッと笑い合う。
この時、フリックとがこの3人を見ていたら、再びイヤな予感に襲われていただろう。
そして、マイクロトフはというと、
(俺は1人なんだ。それは信頼されているという事だよな。頑張らなければ!)
と、決意を新たにしていた。