【 偵察隊 A 】 翌日一行は、目的地である町の前まで来ていた。 『夜、宿屋で落ち合おう』と決め、一番最初にマイクロトフが入って行った。 次に、フリックとが町へ入って行こうとするのを、ビクトールが止める。 「お前らデキてんだから、腕を組むなり、肩を抱くなりしねぇとなぁ。」 ニヤニヤ笑いながら言うこのセリフに、頭を抱える2人。だが、 「そうだよね。その方が恋人同士みたいに見えると思うよ。」 「私もそう思う!」 とナナミにまで、うんうんと頷かれながら言われてしまうと、反論も出来ない。 の方を見、肩を竦めるフリックに『仕方ないなぁ』と溜め息をつきながら自分の腕を絡める。 「これでいいの?」 と聞くに、笑いながら頷く3人。 「じゃ、行こうか。」 フリックの方を仰ぎ見ると、完全にから顔を背けている。しかも、 耳がほんのり赤いような気がする。 「・・・フリック?」 不思議そうなの声に、フリックの身体がビクッと震え、 「そ、それじゃ、行こうぜ。」 と、言いながら歩き出すが、やっぱり顔はから背けたまま・・・ そんなフリックを見ながら、は自分の顔が綻ぶのを、どうしても止められなかった。 そんな後ろ姿を眺めながら、3人は握手を交わしていた・・・・・ 町の中へと入り、ビクトール達の姿が見えなくなっても、 はフリックの腕に絡めた自分の腕を外せないでいた。 またフリックも、その腕を外させようとはしなかった。 この町は帝国側ではあるが、かなり酷い扱いを受けているとの情報が入ってきたのだ。 それを確かめる為に、そしてこの町を解放する糸口を探しに来ている。 町の人々の話を聞いて回っていると、前方にマイクロトフを見つけた。しかし・・・ 「ねぇ・・・あれ、マイクよね?」 「・・・ああ。」 呆然と見つめる2人の視線の先では、マイクロトフが綺麗な女性と2人で仲良さそうに歩いていた。 自分達には気付きもせず、行ってしまったマイクロトフ。 フリックとは顔を見合わせ『今夜追及しよう!』と、目と目で語り合い、頷き合うのだった。 この時は(仲良さそうで、まるで恋人同士みたいだったな。羨ましい・・・) などと思っていたのだが、 他の人達から見れば、自分達も十分恋人同士に見えているという事実には、全く気付いてなかった。 夜、宿屋に集まった6人は、自分達が集めた情報を報告しあった。 「じゃあ、これをシュウさんに話して相談しよう。」 のこの言葉で、報告会は終了。 すると、マイクロトフはすぐに自分の部屋へと戻ってしまった。 この時、フリックとを見て真っ赤になったマイクロトフに、2人はただ首を傾げるだけだった。 このまま、ここに5人が集まっているのはマズイというビクトールの意見で、 フリックとも自分達の部屋へと戻った。 皆で一緒の部屋というのは、よくある事だったが、今回は2人だけ。 別々の部屋にしようかとも言っていたのだが、恋人同士という設定である以上それもおかしい。 故に、2人は同じ部屋に泊まっていた。 愛剣オデッサを丁寧に手入れするフリックの手元を、少し切なそうに見ていただったが、 ふと、テーブルの上に置いてある短剣に目が止まる。 「フリックって、短剣も持ってたんだ。」 珍しそうに見つめるに、苦笑を浮かべながら、 「ああ、それはな・・・ちょっと特別・・・なんだ。」 優しい眼差しで短剣を見るフリックに、 「ふ〜ん・・・じゃあ、それにも名前がついてるの?」 「え?あ、いや・・・」 何気なく聞いた事だったのだが、フリックの反応でそれにも名前がついているのを悟る。 それもオデッサなのだろうと思ったは、ただ『そう。』とだけ呟くと、自分のベッドへと入る。 「先に寝るわよ。おやすみ。」 「ああ。」 例えベッドに入っても、フリックがいるこの状態で、しかも2人きり。 何もありえないと分かっていても、が眠れるはずもなく、ただ目を閉じているだけ。 そのうちに、手入れが終わったのか片付ける音が聞こえ、 「おやすみ・・・・・・」 (寝ている自分に?)と、不思議に思ったが目を開けると、そこには、 先程の短剣の柄の部分に、キスをしているフリックが・・・・・ 驚いて固まっているの気配に気付いたフリックと目が合った瞬間、フリックが真っ赤になった。 「あっ!こ、これは、そ、その・・・」 フリックがここまで慌てなければ、は無理矢理にでも、今の声と行動を切り離しただろう。 だが、この反応で分からない程、鈍くもないのだ。 「フリック・・・その短剣の名前って・・・」 呆然と聞いてくるに、諦めたように溜め息をつき、 「・・・、だ。」 「私・・・の?・・・なぜ?」 の身体が震えているのに気付かないフリックは、自嘲気味に笑い、 「そこまで言わせんのか?・・・・・もう、分かってんだろ?」 その言葉に力なく首を振りながら、切なげな表情で、 「でも・・あなたには、オデッサが・・・」 「ああ、俺の心の中にはまだオデッサがいる。だから、お前に伝えるつもりはなかった。」 「フリック・・・」 「オデッサを忘れないかぎり、ずっと・・・」 から顔を背け、苦しそうに呟くフリックに、ベッドから下りて近付くと、そっと頬に触れる。 「私も・・・あなたが、好き・・・」 弾かれたように顔を上げ、を見つめるフリックの目が切なげに揺れ、 頬に当てられた手を握り、目を閉じる。 「だが・・・俺は・・・」 「オデッサを忘れないで・・・そんな事言わないで・・・私も、忘れたくないから・・・」 涙の溜まった瞳で優しく微笑みながら伝える。 そんなを、衝動に突き動かされるように強く抱き締めると、涙を唇で拭いながら、 「なら俺は、お前に伝えてもいいの・・・か?、お前が好きだ・・・と。」 返事の代わりにフリックの背中に腕を回して、胸に顔を寄せる。 その顎に指がかかり、上を向かされ唇が重なる。 「ねぇ、でもどうして短剣にキスなんてしてたの?」 長いキスのあと、赤くなっている頬を隠すように、フリックの胸に顔を埋め、 ふと、気にかかった事を尋ねてみる。すると、再び顎に指がかかり、上を向かされて、 「本当は、ずっとここにキスしたかったんだ。だから・・・」 親指で唇をゆっくりとなぞられ、が真っ赤になる。 その様子にクスッと笑い、軽くキスを落として、部屋を出て行こうとするフリック。 「どこに行くの?」 驚くに、 「あのな、俺も男なんだよ。惚れた女が傍にいて、何も感じないわけないだろ。 今までは、お前の気持ちを知らなかったから我慢もできたが・・・もう、な。」 切なげに目を細めて笑うフリックに、の心も決まる。 再び出て行こうとする背中に抱き付いて、囁いた。 「行かないで・・・傍にいて・・・」と。 翌朝、城へ戻る一行。その中には、 仲睦まじく、少し照れながら歩く、フリックと。 それを嬉しそうに後ろから眺める、ビクトール、、ナナミ。 そして、マイクロトフの横には、綺麗な女性がいた。 この女性は、町でフリックとがマイクロトフと一緒にいるのを見た、あの女性だった。 この2人もまた、仲睦まじく、城へと戻るのだった。 |