このお話を読む前に、お名前登録所の『その他』の所に『前世の名前』を登録してきて下さい。
されませんと・・・前世のお名前は『柚葉』になります。
それでも構わない方は、このままお読み下さい。





【 魂の記憶 D 】





ここは・・・何処? 私は・・・・・









。」

・・・?私・・・?

あ・・・この人は・・・私と同じ主人に仕える女房。

「何をぼ〜っとしているの?」
「ん・・・何でもないわ。白昼夢でも見ていたよう・・・」
「ねぇねぇ、それより見て!葉王様よ!」



・・・またか・・・



麻倉葉王。帝の覚えもめでたき大陰陽師って人。

御簾越しに見えるその姿は、確かに綺麗で素敵な人なんだろうなっとは思うけど、ただそれだけ。
私は、他の女房達とはどうも考え方が違ってるみたいで、この時代にはつくづく合わないんだと思う。

どうして私は、今この時に生きてるんだろうって時々思うくらい。



だから最近は、麻倉葉王の噂話ばかり聞かされて、いいかげん飽きた。



あの人には全く興味はないけど、どうしても気になる事がある。

いつも凛としてて涼しげで、堂々としてて優しい微笑みを浮かべるあの方が、時折見せる寂しげな影。
あれだけが、どうしても気に掛かる。心に引っ掛かる。

これって結局、私も無関心ではないって事・・・よね・・・




















どうしてこうなるのよ!!!

牛車の中でいくら悪態をついても、仕方ないのだけど!
主人の命に背く事など、出来ないって事は、分かりきってるんだけど!



どうして『誰が行っても構わない麻倉葉王へのお使い』に、私が行かないといけないのよぉ!!!



毎日毎日、『葉王様』『葉王様』って煩いくせに、こうやって直に会うとなると、皆尻込みする。
結局、彼女達にとっての麻倉葉王って、観賞用なのよね。

実際に会うとなると怖いのよ、彼の力が・・・










さて・・・何のかんのと言いながら、着いてしまった麻倉葉王邸。
いつまでも愚痴ってても仕方ないから、ちゃんとお仕事しましょうかね。

「・・・貴女は?」
「えっ!?」

急に後ろから声がして振り返ると、いつのまに来たのか、真後ろに人が立っていた。



この人・・・麻倉葉王。



お願いだから、足音くらいさせて近付いてよ・・・私には気配を読む事なんて出来ないんだから・・・

ってか、砂利敷きを歩いて、どうして足音がしないのよぉ!!!

「これは失礼。驚かせてしまいましたね。」

そう言ってにっこり笑ったこの人に、違和感を感じる。
急に声を掛けて、驚かせたからの言葉のはずなんだけど・・・何かが違うと感じる。

「あの・・・?」



ハッ!?



私、主人の使いで来たんだった。こんな所で突っ立ってたんじゃあ、どう考えたって不審者は私の方・・・
しかも、この人の顔をじっと見つめてしまっていた・・・はしたない・・・

「どうぞ。」
「え?」

館の中へと促される。・・・どうして?

「このような所におられたら、私へのご用だと思いますよ。」

・・・私って、そんなに思ってる事が顔に出ますか?それって・・・女房としちゃあ、致命傷なんじゃあ・・・










部屋に通される。渡すだけ渡して帰るつもりだったのに、どうして上がり込んでるかな、私・・・

でも、どうしてもさっき自分が感じた違和感が気になる。

「貴女は・・・」



っ!?・・・な、何?私、今何を思った?何を感じた?



そんなはずないのに・・・そんな事出来るわけない、そう思うのに・・・どうしてどこかで納得してるの!?
この人の・・・寂しげな表情が、悲しげな表情が・・・自分の直感が正しいと伝える。

どうしてそう思うのかは分からないけど・・・この人・・・人の心が読める?

私がそう思った瞬間、ここからでも分かる程彼の身体がビクッと震えた。

この・・・麻倉葉王ほどの男が・・・震えた・・・










何故、私は気持ち悪いと思わないのだろう。怖いと感じないのだろう。

それを、この人の1部として、受け止めてしまっている私がいる。



「・・・意識してやっているのですか?」
「・・・いいえ。」

っ!?それは・・・

「無意識に・・・?」
「はい。」

それは・・・あまりにも・・・辛く、悲しい・・・

「貴女の・・・名は?」
「・・・です。」
・・・素敵な名だ。」
「ありがとうございます。」
は・・・暖かい人ですね。」
「葉王も・・・」
「え?」
「葉王も・・・暖かいですよ。」
「・・・ありがとう・・・」

何故だか、『麻倉葉王』とも、『葉王様』とも呼びたくなかった。ただ・・・『葉王』と呼びたかった。

その時の、少し恥ずかしそうに、儚げに笑う葉王を私は生涯忘れる事は出来なかった・・・






























今のは・・・ハオ。1000年前のハオ・・・葉王・・・それと、1000年前の私。

私の魂が記憶している、彼と私の出会い。





起き上がって周りを見ると、そこはあれから1000年後の世界。

パッチ族が、グレートスピリッツが、干渉してきた事によって、呼び覚まされた記憶。
私が、グレートスピリッツを拒否する事が、記憶の戻る条件だった。自分で作った条件。

どんどん湧き上がって来る記憶・・・最初は、同情だったのかもしれない・・・でも・・・





私は、彼を愛した・・・葉王という人間を・・・魂を・・・

誰よりも、葉王だけを愛していた。そして・・・彼もまた、私を愛してくれた。





そして、もう1つ思い出した。





私は・・・葉王の子を身篭ったという理由だけで、それだけで・・・人の手に掛かって・・・お腹の子供共々・・・

そして私の魂は、グレートスピリッツによって、別の世界へと飛ばされた。

2度と、葉王と出会う事の叶わない世界へと・・・










涙が・・・止まらない・・・

私は、葉王が謀反を起こした事を知らない。それはきっと、が死んだ後の話。

それまでの彼は、穏やかで優しく・・・でも、と・・・後、マタムネ以外に心を開いてはいなかった。

以外には見せた事のなかった、我侭な部分、寂しがりな部分、弱い部分・・・
それを受け止め、抱き締めてくれる存在を無くし、彼は・・・人間を憎んだのかもしれない。

その存在を奪った人間を・・・そして、霊視の力がそれに発車を掛けて・・・葉王の心を壊したのかもしれない。



ハオは、人間も・・・そして、シャーマンも信じてはいない。



葉王の魂の記憶が、そうさせた。じゃあ・・・私は?

の魂の記憶は、である私に、何を求めているの?





な〜んてね。昔のも、今のも、変わらない事が1つだけある。

それは・・・『彼の傍に居たい』という想い。

は葉王を愛していたけど、がハオを愛しているかと聞かれたら、答えられない。

それは、これから私が出す答えだから。



だから、今の私にとって『傍に居たい』という事だけが、

それだけが・・・の魂の真実。