【 宿命 A 】





「とにかく、見ないで下さいってば!」
「んな事言ってもよ・・・水飲んでるかも・・・」
「ダメです!!!」
「とりあえず、これでも掛けてろよ。」

パサッ

私の身体に何かが掛けられる。



・・・・・何?



それを確かめようと目を開ける。それに、さっきから聞こえてくるこの声は誰?





さん!!!!!」

っ!?・・・・・び、びっくりした。でも、おかげで思い出したわ。
目の前にの顔があるって事は、やっぱり夢じゃなかったのね。

ついでに助かったんだ。

は?大丈夫なの?」
「うん、僕は大丈夫だよ。さんは?痛いトコない?」

問い掛けられて、自分の身体を確かめようと見ると・・・・・青い布?

あ、さっき掛けられたのは、これかぁ・・・でも、一体誰が?



そこで初めて、私達以外にも人がいるって事に気付く。
いや・・・自分でも鈍いと思うけど・・・気付かなかったものは、仕方ない。
すぐ目の前の男の顔を見て、私の動きが止まる。

この、青いバンダナは・・・

「・・・フリック?」
「え?」

そして、横の男を見て、それは確信になる。

だって、この熊は・・・

「ビクトール・・・」
「あん?」

2人とも生きてたんだぁ!あのラストで行方不明になんかなるから、心配してたんだよ・・・

「何で・・・俺達の名前を・・・?」

へ?・・・・・あ・・・もしかして、ヤバイ?

さん、何でこの人達知ってるの?」

が小声で尋ねてくる。

「さっき(?)話したでしょ、ゲームの!彼らはその前作に出てくるのよ。」
「へ〜〜〜。」

物珍しそうに2人を見上げる。やめなさいね、君。



「えっと、このマントあなたのでしょう?ありが・・・痛っ!」

マントを返す為に立ち上がろうとしたら、右足に激痛が走った。

い、痛い・・・でも、あの崖から飛び降りて、これくらいで済んだのなら、幸運だよね。
は何ともないみたいだけど、この子とは若さも、鍛え方も違うし、
何より・・・きっと運の強さが違うはずだわ!主人公は運が強いと思うし・・・



さん!どこか怪我したの?」

心配そうに覗き込んでくるを、安心させるように、にっこり笑い、

「ううん、だいじょう・・・たぁ!!!」

涙目になりながら、私の足元に座り込んでいる男を睨み付ける。
それじゃなくても痛いのに・・・私に、何か恨みでもあんのか、フリック!!!

「ちっとも大丈夫そうじゃねぇな。」

今度は上から声が降ってくる。ちくしょう、こいつら・・・

「骨は折れてないようだが、無理はするな。」

そんな事言ったって、どうすれば・・・・・・・・・・・・・・・はい?

いきなり感じた浮遊感に、そしてあまりにも至近距離にあるフリックの顔に思いっきり焦る。
わ、私・・・フリックに抱き上げられてるよ!し、しかもこれって・・・

「ちょ、ちょっと、私大丈夫だから、下ろしてよ!」

『わぁ、格好良い♪』などと、嬉しそうに呟いているを睨みながら言う私に、

「煩い。怪我人は大人しくしてろ。」

きっぱりと言い放つフリック。
ふと、視線を感じて見ると、ビクトールがニヤニヤしながら見物してる。
この男・・・絶対、面白がってやがる!・・・・・あれ?

、ジョウイは?」

私の問い掛けに、全員の動きが止まる。え、何?

「すまない・・・俺が見失ったんだ・・・」

・・・フリック・・・

貴方が悪いわけでもないのに、どうしてそんな辛そうな顔するのよ。
ビクトールも、一瞬顔を曇らせたの私、見逃してないわよ。
本当に・・・貴方達って・・・

俯いてしまったに向かって、でも心では全員に向かって、

「大丈夫よ。ジョウイにはまた会えるわ。私は、彼を信じてる。」
さん?」

心細そうに、縋るような目で見上げてくるに、

「だって、約束したもの、ね?」

下に居たら、抱き締めてあげるのに、流石にここからじゃそんな事も出来ないな。
でも、には伝わったようで、

「うん、約束したもんね!僕もジョウイを信じるよ!」

力強く頷くその顔には、笑顔が戻っていた。とりあえず、一安心・・・かな。





「これって、何処に向かってるの?」

抱き上げられている体勢なので、とりあえずフリックに聞いてみる。

「ん?ああ、俺達の砦だ。」



砦?砦って何?っていうか・・・だから、何処?



首を傾げる私を見上げながら、

「僕達、捕虜なんだって。」

のほほんと伝えられた、の言葉を理解するのに、数秒かかった。

「ほ、捕虜〜〜〜!?・・・あ、ごめん・・・」

いきなり耳元で叫んじゃったから、フリックに睨まれちゃって、思わず謝っちゃったよ。
・・・いや、ホント、ごめんってば!

「俺達は、都市同盟に味方してる傭兵なんでな。」

後ろから聞こえてきた声に顔だけ振り向き、ビクトールに対して首を傾げる。



都市同盟って・・・何?



「あ、さんは関係ないよ!僕達のテントの中に降ってきた人なんだから!」

「「はぁ??」」

の言葉に、思いっきりまぬけ顔の2人。
そりゃそうだろう。この説明じゃ、まったく分からないよね。でも・・・
この2人に説明すんの〜?信じてくれるわけないでしょう・・・はぁ・・・










あの後、すぐに砦とやらに到着したの。
それで、と私は離されて、は牢みたいな所に入れられたみたい。
まぁ、一応捕虜だもんね。

んで、私はというと、レオナさんって人か、バーバラさんって人に、
とりあえず服を借りて、着替えるって事になったの。びちゃびちゃだったからね。
この格好で抱き上げられてたんだから、当然フリックも濡れたよね・・・ごめんよ・・・

でもねぇ・・・私、このお2人とは、完全に体形が違いますのよ。

レオナさんみたいに色っぽい体形もしてないし、バーバラさんほど・・・・・・・・・・





「とりあえず着替えないと、風邪ひくしねぇ。」
「そうそう、これでも着ときなよ。」

その言葉と共に、上からバーバラさんの服が降ってきた。



・・・でかい・・・



「じゃあ、この服は洗ってくるよ。」
「頼んだよ。」
「あ、すみません。ありがとうございます。」

私の服を持って出て行こうとするバーバラさんに、頭を下げながらお礼を言うと、
彼女は、『あいよ』と笑いながら頷き、そのまま出て行った。

「さてと、そのままじゃどうしようもないねぇ・・・」

ちょっと(?)私には大きすぎるから。
細長いリボン状の布を1枚借りて、胸の下からウエストにかけてぐるぐる巻いて止め、
襟と肩の所を、レオナさんに詰めてもらったら・・・何とかなった・・・かな?





「おい、着替え終わったか?」

その声と共に、1匹の熊・・・もとい、ビクトールが入ってきた。

ノックも無しに、ドア開けやがったぞ、こいつ・・・
着替え終わってなかったら、どうするつもりだったんだろう・・・どうもしない気もするけど・・・

「着替え終わってるか?」
「ああ、終わってるみたいだぞ。」

ビクトールの後ろから、フリックの声がしてるのは、気のせいじゃないみたいだねぇ・・・
知ってたんなら、止めろよ、フリック!!!

まぁ、止めても無駄のような気もするし、多分、バーバラさんが出て行ったから、
入ってきたんだとは思うって言うか、思いたいんだけどね・・・





「ホウアン先生が来てくれたからよ、一応診てもらっときな。」

・・・ホウアン先生って、誰?

フリックの後ろから、メガネをかけた優しそうな男の人が入ってきた。
この人が、ホウアン先生?お医者様かな?・・・ん?
その人の後ろから、ピョコンと男の子が顔を覗かせる。
10歳くらいかな。可愛い!この子がホウアン先生じゃ・・・ないよねぇ・・・



ホウアン先生に、足を診てもらったら、

「骨に異常はありませんが、絶対に安静にしていて下さいね。」

と、言われた。にっこり笑って、優しく言ってるのに、この逆らえない雰囲気は、一体何?

「また後日、トウタ君に薬を届けさせますから、それはきちんと飲んで下さいね。」
「はい、分かりました。ありがとうございました。」

レオナさんが、ホウアン先生を見送る為に出て行ったから、この部屋には、
ビクトールとフリックと私の3人だけ。何だか・・・すっごく嫌なんだけど・・・










「・・・で?聞かせてもらいましょうかねぇ、お嬢さん。」

私が座ってるベッドの横に椅子を持ってきて、背凭れを前にして座りながら、
顔を覗き込んでくるビクトールと、

「名前は、 だったよな?」

窓の所に凭れて立ち、腕を前で組んで私を見据えるフリック。





・・・・・こ、こわ〜〜〜〜〜・・・・・





誤魔化したって仕方ないし、嘘をつくにも、ここに対する知識がまるでない。
だから、ありのままを話したのに・・・いや、分かっていたけど・・・

「お前ねぇ・・・もう少し、マシな嘘はつけねぇのかよ。」

・・・そりゃあね、疑われるとは思っていたよ。呆れられるとも思ってた。
自分でも信じられないのに、信じてもらおうって方が無理なんだよね。達が特殊なんだ。

でもね・・・なんか・・・ムカツク・・・

だって、私は本当の事を正直に話してるんだから、やっぱり・・・ねぇ・・・で、つい・・・

「ビクトールなんか、300年前に飛ばされた事だってあるくせに、
頭っから否定する事ないでしょ!本当なんだから仕方ないじゃない!」

って、ビクトールをキッと睨みながら言っちゃったんだけど・・・
2人とも、目を大きく見開いちゃって、どうしたんだ?私、何か変な事言ったっけ?





どうやら、あの300年前に飛ばされたって事は、殆ど知られていないらしい。
だから、ゲーム云々の話は抜きにして、別世界から来たというのは、信じてくれたみたい。
まぁ、彼らにとっては、あまり珍しくない・・・事もないか。

ただ、ゲームに関しては、それ自体が良く分からないみたい。
まぁ、仕方ないね。私だって、上手く説明出来ないしね。










「解放軍の元リーダーも知っているのか?」

部屋を出て行こうとしていたフリックが、ドアの所で私を振り返り、尋ねてきた。

「それは、マクドール家の坊ちゃんの事?それとも・・・オデッサ?」

尋ね返す私に、フリックは何も言わない。それが全てを物語っている。

「良い女だったわよね、同じ女として憧れる。私は好きよ、彼女。」

窓の外を眺め、オデッサの事を思い出しながら応えて、フリックへと視線を戻す。
フッと、優しくそして切なく微笑んで、小さく『ありがとう』と呟き、
フリックは部屋から出て行った。

彼の剣の名前は、今でも『オデッサ』なんだろうな・・・ちょっと羨ましいや。










あれから数日、とりあえず私の足も大分治り、歩くのには何の支障もなくなっていた。

・・・なのに・・・

「ここの人達って過保護過ぎる〜〜〜!」

そう・・・私は、まだベッドに縛り付けられてたりする。
ちょっと外を歩いてると、すぐにビクトールかフリックに見付かって、
襟首掴まれて、ベッドへと連行される。

私は、猫じゃな〜〜〜い!!!

それにね、絶対皆があの2人に報告してんのよ!じゃなきゃ、毎回、毎回・・・・・





「あれ〜〜〜さん、ここに居たんだぁ!」
!・・・・・何してんの?」

部屋に入ってくるなり、床を拭き始めた。もしもし?
って言うか、君、そんなに自由にしてていいの?捕虜じゃなかったっけ?

「僕にもよく分からないけど、昨日なんてリューベの村までおつかいに行ったんだ!」

・・・おいおい、やらせる方もやらせる方だけど、やる方もやる方だよね・・・
しかも、・・・君、楽しそうだね・・・

ここの世界の捕虜の立場って・・・・・こんなん?



「それより、足の方は?もう大丈夫?」

心配そうにベッドに駆け寄ってきたの頭を撫でてやりながら、

「もう大丈夫。普通に歩くには何の支障もないよ。ありがとね。」

そう言うと、は嬉しそうに笑って、でもすぐに俯いて、

「ジョウイは、怪我してないかな・・・」

・・・・・・・・・・ジョウイ・・・・・





そして、その夜・・・