【 宿命 B 】






「おい!誰かが忍び込んだらしいぜ。」
「ここには、ビクトールさんやフリックさんがいるのに、馬鹿な奴だ。」



部屋の前をそんなにドタバタ走られて、どうやって眠れっていうの?
ベッドの上に、胡座をかいて座り、ふむっと考え込む。





今、部屋の前を走って行った人達は何って言ってた?

『誰かが忍び込んだ』・・・?

とんでもなく失礼な事だけど、こんな何にもない所に、誰が忍び込むの?
そりゃあ、ビクトールやフリックの寝首を掻きに来た人がいるとかなら分かるけど、
そんな人が、見付かるようなヘマをする?
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私の中で、淡い期待が膨れ上がる。
だって、まだ少年だったもの。それくらいのヘマは当然やるわ。
たとえどんなに危険でも、あの子なら来る。



・・・そんな気がする。



忍び込んだ馬鹿は・・・ジョウイ?・・・君なの?



そう思った途端、居ても立ってもいられなくて、私はベッドから降り、そのまま部屋から飛び出す。

「何処へ行く気だ?」
「・・・?」

ゲッ!!!!!

・・・フリックにビクトール・・・

どうしてあなた達が部屋の前に立ってんのよ〜!
しかも、ご丁寧にドアの両サイドに立ってくれちゃって・・・思わず固まっちゃったじゃない。

「え、えっと・・・」
「誰が忍び込んだか分からねぇんだからよ、部屋から出るんじゃねぇよ。」
「だって・・・」
「・・・ベッドに縛り付けられたいか?」

・・・遠慮します・・・

スゴスゴと部屋へ戻る私。
だって、本当にやりかねないんだもん、この人達。










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よしっ!部屋の外に人の気配はない・・・はず・・・
いや、だって・・・私にはよく分からないし・・・気配なんて・・・

そぉ〜っとドアを開けて辺りを見回す。

「うん、大丈夫。誰もいないみたい。」

ジョウイかもしれないという思いは、私の中からどうしても消えない。
だから、確かめに行く!
見付かったら怒られるだろうけど、本当にベッドに縛り付けられるかもしれないけど、それでも!
どうしても気になるから・・・





こっそり部屋を出て、食堂・・・って言うのかな?いつもレオナがいる所。

あれから、レオナとバーバラはよく私の様子を見に来てくれて、私達はすっかり仲良くなった。
実は、年齢も近い事が判明。
『もっと年上かと思った』って言ったら、『もっと年下だと思った』と返された。
どうせ・・・思いっきりの童顔ですよぉ〜!
『さん』付けなんて気色悪いって言うから、呼び捨てになったし、ね。

って、そんな事は関係なかった。その食堂の所にここの兵士の背中が見える。
あっ、ビクトールとフリックも居るわ。それに、その向こうに居るのは、と・・・



とあれは・・・あれはやっぱり・・・



「ジョウイ!!!」



突然後ろから聞こえてきた私の声に、兵士達が驚いて振り返るけど、
そんな事気にしちゃいられないわ!だって・・・だって・・・
ジョウイが生きてたんだよぉ〜!良かった〜!

さん!!!」

私の声に、弾かれたように顔を上げたジョウイがみるみる笑顔になっていく。
う〜ん、可愛い!



嬉しさのあまり、駆け寄ろうとした私の身体が、途中で進まなくなる。何で?
下を見ると、私のウエストに回された、1本の腕。その持ち主は・・・

「・・・フリック?」

腕の持ち主を見上げて首を傾げる。何で止めるの?
ポンッと頭に手を乗せられて、今度はその持ち主を見上げて首を傾げる。

「・・・ビクトール?」

2人とも、視線は私にはなくて・・・一体何事〜〜〜?



「大人を怒らせないうちに、捕まった方が身の為だぞ。」



・・・フ、フリックさん?今のセリフ、とジョウイだけじゃなくて、
私に向かっても言ってた気がするのは、気のせい?
おそるおそる見上げた私をジロリと睨む。ふぇ〜ん、やっぱり怒ってる〜!

「・・・分かりました。」

フリックの言葉に、頷くとジョウイ。
えっと・・・もしかして・・・今の私のってば、人質状態ってやつですか?
そう思いながら、横に居るビクトールを見上げると、

「部屋から出るなって言ったよなぁ?」

はい・・・確かに言われました・・・やっぱり私の所為ですね。、ジョウイ・・・ごめん!










素性を聞かせてもらおうかって事で、連行される。

・・・何で私まで?

「私ももう1度話すの?」

フリックを見上げて尋ねると、ただ一言。

「いや。」

おい・・・じゃあ、なんで私までここにいるのよ!

「お前放っておくと、何しでかすか分かったもんじゃねぇからな。」

・・・ちょっと待て。
どういう意味だ、ビクトール!!!!!・・・って言うか、

ビクトールにだけは言われたくないぞ、そのセリフ・・・





を助けに来て、それにを知ってるって事は、お前もハイランドの人間か?」

ビクトールの質問を、素直に認めるジョウイ。

そうだよね・・・私、彼等のテントの中に落ちてきたって話したもの。
だから、私の事を知ってるのは、ここに居る人達と、テントの中に居た4人だけ。
あの時の、ナントカ隊長ってのは、私の名前までは知らないもんね。

「そうか・・・あの時見失った・・・あれがお前だな。」

フリック?・・・そっかぁ、ずっと気にしてたんだね。
自分が見失ったばっかりにって、ずっと思ってたんだね。
あなたは、そういう人だった。
視線に気が付いたのか、フリックが私の方を見下ろしてきた。
目が合ったから、ニコッと笑ったら、照れ臭そうに笑って、すぐに目を逸らした。
うわっ・・・フリックって、可愛いかも・・・

ビクトールを見上げると、すぐに彼も私の方を見て、ニヤッと笑ってこいつもすぐに目を逸らした。
ふ〜ん・・・やっぱりビクトールも気にしてたんだ・・・素直じゃない奴!
でも・・・本当に、優しい・・・奴。





話は、何時の間にか『何で流されてたんだ?』って事になってた。

そして・・・

「一体・・・何があったんだ?」

真剣に聞くビクトールとフリックに、とジョウイも話し出す。
私が彼等と出会ったあの日おこった、あの訳の分からない出来事を・・・





ルカ・ブライト。

・・・それが、あの日見たあの偉そうな、鋭い目付きをした若い男の名前らしい。
この2人が知ってるくらいだから、やっぱりあの男はザコキャラじゃなかったみたい。
でも・・・気になるんだよなぁ・・・あの時、やっぱり目が合った気がするんだよね・・・
まぁ、だからナントカ隊長ってのが追っかけて来たんだろうけど、

・・・何だろう・・・まだ、何か引っ掛かる・・・










『キャロの街に戻るつもり』だと、『まだ逃げ出すつもり』だと、はっきり言い切る2人。
キャロの街に、戻らなければいけない理由があるような気がした。










とジョウイを再び牢へと戻し、フリックとビクトールは私を部屋まで送ると言い張った。

・・・そんなに信用ないのか、私は・・・

「・・・。」
「何?」

部屋の前まで来て、真剣な顔をして私に話しかける2人の顔を、交互に見つめる。

「あの2人の事、気を付けてやってくれ。」
「え?」

意味が分からず首を傾げると、ビクトールが肩を竦め、

「何を言ったって、あの2人はここを逃げ出すだろうからよ。」



・・・確かに・・・



「真実を知っているあの2人を、ハイランドが、あのルカ・ブライトが、放っておくとは思えん。」

・・・それって・・・つまり・・・?
不安気に見上げる私に、2人はただ黙って頷く。

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「お前の言葉なら、あの2人にちゃんと届くだろうからよ。」




















ベッドの中に入り、少し自嘲気味に笑う、2人の男の顔を思い出してみる。
きっと、あの2人にも、とジョウイみたいな時があったんだろうなぁ。

「・・・さん・・・」

へ?

さんってば!」

うわぁっ!・・・び、びっくりした・・・ベッドの横に、顔だけが2つ並んでたら怖いって・・・

「何やってんの、君達?」
「決まってるだろ、逃げ出すんだよ!」

ビクトール、フリック・・・あなた達の予感、的中だわ・・・

今ここで、私は行かないって言っても、きっと2人だけで逃げ出すんだと思うから。
だから私も、一緒に逃げ出す決心をした。この子達の事、放っておけないもの。



さん、足、大丈夫なの?」
「え?さん、怪我してるの?」

・・・心配してくれるのは嬉しいけど、今は逃げ出す事に集中しろよ、君達・・・
『大丈夫だよ』と頷くと、安心したように、嬉しそうに笑う2人。

そして、ベランダへと出る。



・・・やな予感・・・










嫌な予感って、どうしてこう当たるんだろうね・・・
ベランダから、ロープをたらして、私にどうしろと?
とジョウイが、2言、3言話し合い、頷いて、ジョウイが先に降りる。

うわぁ・・・器用に降りるもんだなぁ・・・

「はい、さん。」
「は?」

呼ばれて振り向くと、が私に背中を向けてしゃがんでる。
えっと・・・これは・・・もしかして・・・もしかしなくても・・・

「ほら、早く!おぶさって!」



・・・やっぱり・・・



におぶさった状態で降りて行く。今更なんだけど、ダイエットしとくんだった・・・
最後はジョウイに支えられて、地面に降り立つ。

、ありがとう。大丈夫?」

心配そうに覗き込んだ私に、

さんくらい平気だよ!」

そう言ってにっこり笑ってくれる。
君達と一緒に逃げる事を決めて良かったと、心から思うよ。良い子だよ、本当に。





砦の外へと出た私達は、やっぱりキャロの街に行く事になった。
『危険かもしれない』と言いながらも、『戻らなければ』と言う2人。

フリック、ビクトール、ごめん。私にはこの2人を止められないよ。

だから、私も一緒に行く事にしたの、キャロの街へ。2人の心を守る為に・・・