【 宿命 D 】






アイリ達3人と別れて、私は改めてこの街を見る。

キャロの街

ここが、とジョウイが育った街。この子達の故郷。

さん、ここがキャロの街。僕達の街だよ。」

久し振りの故郷が嬉しいのか、がニコニコ笑いながら教えてくれる。



・・・・・けど・・・・・



「ジョウイ・・・?」

一方、ジョウイは難しい顔をしている。

「僕・・・やっぱり一度家に戻ってみるよ。」

家に戻るのに、どうしてそんな顔をするの?って、聞きたいけど、聞いてはいけない気がする。

「本当はさんも一緒に連れて行きたいけど、危険かもしれないからやめておくよ。」



・・・・・ 危 険 ? ・・・・・



そこで私は、ビクトール達が言っていたのを思い出した。





『事実を知ってるあの2人を、ハイランドが放っておくとは思えん。』





「それじゃ気を付けて・・・また、後で。」

そう言いながら去って行くジョウイの後ろ姿を見つめながら、引き止めたい衝動に駆られる。
何で?どうしてこんなに不安なの?
『行かせてはいけない』そんな気がしてならない。でも・・・
ジョウイの姿はもう、見えない・・・










一抹の不安を抱えながら、キャロの街へと入っていく。
へ〜〜〜結構大きな街なんだね。

「いきなりさんを連れて帰ったら、多分ナナミびっくりすると思うんだよね。」

街の中を歩きながら、が言う。
そりゃあそうだよね・・・戦場に行ってた弟が、いきなり年上の女連れて帰ってきたら驚くだろう。
『何しに行ってたんだぁ!』って感じかな。

「だからね、僕先に帰ってナナミに話しておくから、さんは・・・」
「分かった。少し街を見て回ってから行くよ。」
「うん!この道を真っ直ぐ行けば道場があるんだ。僕の家はそこだから。」
「了解。ほら、早く帰って安心させてあげなさい。」

嬉しそうに大きく頷いて、走って行く。あの背中に不安は感じない。
じゃあ、さっきジョウイに感じたあの不安は・・・何?

さてと・・・私は、少し街の中を探検してみようかな。










どういう事だろう・・・街のあちこちから聞こえてくる話。

『2人の少年のスパイ』

1人はアトレイド家の坊ちゃんと、もう1人は道場の子供・・・
って、道場に住んでるって言ってたよね・・・まさか・・・
って事は、アトレイド家の坊ちゃんってのは、ジョウイ?

2人にスパイの容疑がかかってる?あれが2人の所為になってる?

これが・・・ハイランドのやり方だって言うの?・・・あまりにも汚いよ・・・





兎に角、に知らせなきゃ!
そして、すぐにジョウイの家に行かないと!

えっと・・・この道を真っ直ぐでいいんだよね?

何かここへ来て、私、良く走ってるよなぁ・・・体力ないのに・・・





あった・・・多分此処の事だよね、道場って・・・此処がの家。

「お邪魔します・・・?」

声を掛けて中へ入ってみるけど、誰もいない?

「勝手に入っちゃいますよぉ?」

・・・靴、脱がなくていいんだよね?

1つ1つ部屋を覗いてみるけど、誰もいない。何処に行っちゃったんだろ・・・





「えっと、ここは・・・キッチン?」

キッチンって言うよりは、台所って感じかな。鍋や野菜があるから多分そうだと・・・
これ、お菓子だよね・・・隠してんのかなぁ?
あっ!勝手口みたいな所がある!ここから外へ出れるのかな?

・・・・・・・・・・、居たけど・・・・・・・・・・

女の子に襲われてる・・・何やってんの?





「あっ!!!さん!!!」

・・・その思いっきり『助かったぁ!』って顔は何なのかな?
その上に乗っかってるこの女の子が・・・ナナミ?うわぁ・・・可愛い!

「初めまして、あなたがナナミ?」

私がにっこり笑って話し掛けると、この子もパァッて笑って、

「うん、ナナミよ。あなたがさんなのね?」

うん。この子も可愛いわ♪でも・・・まだの上なのよね・・・

さんも一緒に逃げよう!」

・・・はい?ナナミちゃん?突然、何?

「え?ちょ、ちょっと、ナナミ?」

呆然としている私の手を引き、家の中へと戻ろうとするナナミ。

お願い・・・説明して・・・

「あ!いけない、忘れ物!」

そう言うなり、私の手を離してを・・・・・・・・・・

・・・今、思いっきり頭打った気が・・・大丈夫?それにしても、ナナミって・・・

「ゲンカクじいちゃんに、さよなら言ってなかったから。」

ゲンカクじいちゃん?
・・・2人は1番端まで行き、手を合わせる。それは・・・・・お墓?
やっぱり・・・私もご挨拶しなきゃね。
そう思って、私も2人の元へ行き、そのお墓の前で手を合わせる。

さん・・・ありがとう・・・」

顔を上げると、優しく微笑む2人。急に大人びたその表情に、私はドキッとした。

さんみたいに綺麗な人がお参りしてくれたんだから、きっとじいちゃん私達を守ってくれるよ!」

立ち上がって、笑いながら言うナナミに、さっきまでの表情は微塵も感じない。でも・・・

きっと、色々あったんだろうね、今まで・・・





「ところで・・・その、君の後ろにいるのは・・・?」

さっきからずっと気になってたんだけど、それってモンスターってやつじゃ?

「え?・・・あ、この子はムクムク。むささびだよ、友達なんだ。」

ふ〜〜〜ん・・・モンスターの友達・・・ま、いっか。

「宜しくね、ムクムク!」

しゃがんで挨拶したら、トコトコ歩いて傍に来て、私を見上げる。

・・・・・か、か、か、か、可愛い〜〜〜〜〜!!!!!

思わず抱き締めちゃったよ!だって、本当に可愛いんだもん♪










兎に角、急いで逃げようって事になったんだけど、
家を出ようとした瞬間、私の目の前で閉ざされた扉。

・・・?ナナミ?どうしたの?

「絶対に出てきちゃダメだよ、さん!」

扉越しに呟くようなの声が聞こえる。一体・・・何が?

この扉の向こう側で、とナナミが戦っている音がする。
まさか・・・ハイランド兵がこんな所まで?





外が静かになる。・・・・・・ナナミ・・・無事なの?
心配だけど、は『出てくるな』と言ったの。私はどう考えたって足手まとい。
下手をすれば、彼らの足枷になってしまう。



だから・・・だから・・・



早く、!あなたがこの扉を開けて!



「・・・ラウド隊長・・・」

・・・・・今、何って言った?『ラウド隊長』?それって確か・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「連れて行け!」

この声は・・・忘れもしない、あの崖の上の・・・って事は・・・

!ナナミ!」

扉を開けたその先には、誰もいない・・・

うそ・・・捕まっちゃったの?身に覚えの無いスパイの容疑で?あの『ラウド隊長』に?

・・・・・・・・・・・・・・・っ!ジョウイ!!!










ジョウイの家が何処かなんて知らない。でも・・・でも・・・

捜さなきゃ・・・が捕まったって事は・・・ジョウイも・・・

何処?ジョウイ・・・何処?ジョウイ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

遅かった・・・あの兵士に連行されてる後ろ姿は、間違いなく・・・



・・・ジョウイ・・・










どうしよう・・・私はどうすればいい?
私が助けに行ったって、逆に捕まるだけ。
アイリ達は?・・・ダメだ。何処にいるのか分からないし、何より、
訓練を受けている兵士に、彼女達が適うわけない。

・・・・・どうすれば・・・・・











何も出来ぬまま、ただ時間だけが過ぎていく・・・
目の前をとジョウイが処刑場へと連行されているのに・・・
私には、何も出来ないの?・・・お願い・・・誰か助けて!





「っ!?」

突然腕を掴まれて、連れて行かれる。

やだ・・・誰・・・?

・・・・・・・・・・・え?

目の前に広がる青いマント。このマントは・・・まさか・・・
恐る恐る顔を上げると、

「フリック!!!」





人気の無い路地まで私を連れて行くと、振り返り、

、一体何があったんだ?」
とジョウイが処刑場に・・・」

それだけ言ったら、フリックはパッと身を翻して走って行く。

「フリック!?」

追いかけようとした私を、止める腕。

「ビクトール・・・」
「心配すんな。俺達に任せてろ!」

そう言って、フリックの後を追って走り去って行く背中。

・・・ジョウイ・・・ナナミ・・・フリック・・・ビクトール・・・

どうか・・・どうかお願い・・・無事でいて・・・















「「さん!!」」

私の名を呼ぶ今の声は・・・

!ジョウイ!」

無事戻ってきた姿を見た私の瞳に、涙が浮かぶ。良かったよぉ・・・

「僕達、今からナナミを助けに行って来るから、もう少し待ってて!」

の言葉に頷く。早く・・・早くナナミも助けて!










さ〜〜〜ん!」
「ナナミ!」

駆け寄ってきたナナミの身体をしっかりと抱きとめる。
ナナミも無事だったんだ・・・良かった・・・










キャロの街を出て行く私達。
寂しそうな3人にかける言葉は・・・ない。
彼らは故郷を追われるのだから・・・ヘタな慰めは、かえって彼らに気を使わせるだけだもの。
私には・・・君達を見守る事しか出来ないよ・・・ごめんね・・・



「フリック、ビクトール・・・ありがとう・・・」

守るように私の両サイドに立つ2人に、声を掛ける。
『気にするな』とでも言うように、私の肩をポンと軽く叩くフリック。

「次は、ちゃんと言ってから行けよ。」

と、思わず『言ったらまたやってもいいのか?』と突っ込みたくなるような事を言うビクトール。

でも、2人が来てくれなかったら、今頃は・・・

そう思うと、身体が震えてくる・・・
2人とも、本当にありがとう。