【 宿命 F 】






再びトトの村に戻ってきたのはいいんだけど・・・これは、一体・・・何?

どうして家が焼けてるの?どうして誰もいないの?
この村を出る時、ここには沢山の子供達が遊んでいたのに・・・

「・・・こ、これは・・・」

ジョウイの呟きに、誰も反応出来ない。
声が出ない・・・嫌な予感ばかりが胸の中で大きくなっていく・・・



「うわぁぁぁ〜〜〜〜〜ん!!!!!」



空気を切り裂くような、悲痛な子供の泣き声に、全員ハッと我に返る。
それに、今の声は・・・

「「「「ピリカ(ちゃん)!!!!」」」」

家の前で泣いているピリカちゃんの所へと駆け寄る。
良かった・・・ピリカちゃん生きてた・・・

「ピリカ・・・一体何があったんだ?」

ジョウイの問い掛けにも答えられず、泣き続けているピリカちゃん。
今のこの村の状態を、見ているだけでもこんなに辛いのに、こんなに小さな子が・・・

「ジョウイ・・・抱き締めてあげなさい。」
さん?」
「この中で、ピリカちゃんが1番慕っていたのはジョウイでしょう。抱き締めてあげて。」

私を見つめていたジョウイが、視線を落とし、ピリカちゃんを見つめる。

「安心させてあげて・・・」

ピリカちゃんに視線を向けたまま、コクンと頷くと、膝を折り、そっと抱き締める。
その腕の中に包まれて、しゃくりあげながらも、ピリカちゃんは話してくれた・・・



ピリカちゃんを守る為、お父さんは『隠れてなさい』と言った。
それを守って、ずっと隠れていたらしい。
そこで聞こえてきた、大きな音と、こわい声。
この幼い心に、恐怖を感じさせるくらい・・・恐い声。
でもその恐怖故、両親が心配になったのだろう、出てきてしまった。

そして、見つけてしまった・・・動かなくなってしまった、自分の両親を・・・・・



話し終えたピリカちゃんは、ジョウイの腕の中で再び泣き出した。
抱き締めるジョウイの腕に、力が篭っているのが分かる。
『大丈夫、良い子にしてたらまた会える』と言いながらも、泣き続けるピリカちゃんは、
本能的に知っているのかもしれない。もう2度と・・・会えない事を・・・

「・・・さん・・・」

痛いくらいに私の腕を掴んでくるナナミに、

「ダメよナナミ、泣いちゃダメ。ピリカちゃんの前では絶対に・・・」

そう言いながらも、私の方こそ、涙が零れてしまいそう・・・





「誰か居るの?」

突然聞こえてきた女性の声に、ハッと振り返る。
・・・何処かで見た事ある顔・・・?

「ここで何があったのですか?」
「ハイランドの狂皇子ルカ・ブライトの仕業よ。」

ルカ・ブライト・・・また、この名前・・・

え?

ぎゅっと私の手を握ってきた・・・震えてる・・・?

「また、あの人は・・・士気を高めるなんて理由の為だけに・・・」

・・・そうだった。この子は同じ目にあってるんだ。
そして、その為に故郷を追われ、帰る場所を無くしてしまった。それは、ジョウイも同じ・・・
そっとの手を握り返すと、ハッとしたように私を見て、泣きそうな顔をする。
あの後も、ずっと元気だったから安心してたけど、無理してたんだね。

ごめんね、気付かなくて・・・・・




「あなた達、ビクトールを知っている?すぐに案内して欲しいの!」

・・・やっぱりこの人絶対アップルだ・・・人の都合お構いなしなんだもん・・・
泣いているピリカちゃんの為に、食って掛かるジョウイに、まるで聞く耳持たない。
まだ何か言おうとするジョウイを、私が止める。

「ジョウイ・・・行くわよ。」
さん!どうして!?」

『信じられない』というような顔をするジョウイに、諭すように静かに言う。
熱くなっているジョウイに、怒鳴ったって逆効果だから。

「ここに・・・この場所に、これ以上ピリカちゃんを置いておきたくないの。」

私の言葉に、、ジョウイ、ナナミはピリカちゃんを見つめ、頷く。

「何をしているの!早く行かないと!」
「あなたは黙っていなさい!」
「なっ!」

痺れを切らしたアップルの言葉を、私が遮る。

「あなたは連れて行ってもらう立場でしょう。急ぐ気持ちも分かるけど、少し黙ってなさい。」

キッと私を睨んでいたアップルだったけど、スッと視線を逸らして、

「・・・ごめんなさい・・・」

ふむ・・・素直なんだけど、周りが見えなくなっちゃうんだな。

さん・・・早く戻ろう。僕もこれ以上ピリカちゃんを・・・」
「そうだね。」

の言葉に私が頷くと、ジョウイがピリカちゃんを抱き上げる。
抱き上げられたピリカちゃんの手を、ナナミがそっと握る。安心させるような笑顔で・・・









砦に戻ってきたのはいいんだけど・・・どうして私達までこの部屋にいるんだろ?
って言うか、ピリカちゃんもいるのに、目の前でそんな話普通するか?
デリカシーってもんがないのか、あなた達には!!!

、ジョウイ、ナナミ、ピリカちゃんを連れて部屋へ戻ってなさい。」
「おお、そうだな。お疲れさん、部屋で休んでな。」

私が言うと、すぐにビクトールが同意する。

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4人が部屋を出て行ったのを確認して、ビクトール、フリック、アップルの頭を1発づつ殴る。

「いってぇ!」
「何するんだ、!」
さん・・・?」

3人の顔を睨みながらぐるりと見回して、

「もう少し早くあの子達を外へ出しなさいよ!特にピリカちゃんには聞かせて良い話じゃないでしょう!」
「で、でもよ・・・」

何か言おうとするビクトールをキッと睨みつけて黙らせ、

、ジョウイ、ナナミだってこんなの・・・何を信じていいのか分からなくなるよ・・・」
「だが、何時かは知る時が来る。あいつらが自分で乗り越えなきゃいけない壁だ。」

真っ直ぐ私を見て言うフリックに、今度は私が何も言えなくなる。
本当は分かってる。彼らが自分で乗り越えてこそ、成長していくんだって事。

「まぁ、お前の気持ちも分からんでもないけどよ。」

優しい瞳で私を見つめるフリックとビクトールに、不覚にも涙が溢れそうになる。

「でも、あの女の子に対しては、確かに配慮が足りなかったわ、ごめんなさい。」

頭を下げるアップルに、私も首を横に振る。

「私の方こそごめんなさい。今のは完全に八つ当たりだわ。」

あんな光景を目の当たりにしても、何も出来ない自分。
あの子達の心を守る事さえ、私には出来ない。
ただ、皆に守られてるだけ・・・こんな自分に腹が立つ。
何もかも分かっていると言う様に、私の頭をポンポンと叩くビクトール。
あなた達がこうやって私を支えてくれるように、私もあの子達を支えられたらいいのに・・・





「・・・ナナミ?」

部屋へ戻ってきた私は、扉の前で膝を抱えて座り込んでいるナナミに気付き、声を掛ける。

さ〜〜〜ん・・・」

顔を上げたナナミが今にも泣きそうで、私はその場に膝をついて、抱き締める。
ギュッと抱き付いてくるナナミの背中を2、3度軽く叩き、そっと離して部屋の中へと促す。

「ねぇさん・・・やジョウイの為に、私に何が出来るのかな?」



・・・この子は・・・



自分だって同じ立場なのに、それでも・・・

「笑っていなさい。」
「え?」

驚いたように私を見るナナミに、出来るだけ優しい笑顔で告げる。

「ナナミが笑っている事。それが彼らには1番だと思うよ。」
「笑っている事・・・」

呟くように復唱するナナミをそっと抱き締め、

「でもね、彼らの前で泣く事を我慢する事もないのよ。そんなの直ぐにバレちゃうと思うしね。」
「うん・・・」
「泣きたい時は思いっきり泣きなさい。でもね、その後ちゃんと笑顔を見せなさい。」
「泣いた後に?」
「そう。その笑顔で彼らは安心するから。」

コクンと頷いてから顔を上げ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

・・・な、何?

「さっきは『泣いちゃダメ』って言ったのに。」

さっき・・・?

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あぁ!トトの村でか・・・何の話かと思ったよ。

さん、ナナミいる?」

扉の外からの声。

「どうしたの、?」
「ビクトールさんがね、来て欲しいんだって!」

ふ〜ん、お呼び出しですか・・・仕方ないね、行きましょう。





『火炎槍』それって確か・・・オデッサの形見だよね。
ふ〜ん・・・これって誰にでも直せるものじゃないんだね。それを、錆付かせたわけね・・・

「これを直せるのは、この近くじゃ神槍ツァイと呼ばれてる男しかいないんだ。」

1人だけなの!?これって・・・そんなに凄い武器だったんだ・・・
ツァイの所まで行って来て欲しいと言うビクトール。達がこれを断るはずもなく、

「分かりました。」

頷いたに、フリックがツァイへの支度金と仕事の代金を渡す。

「途中で使い込むなよ。」
「・・・ビクトールじゃあるまいし・・・」
「何か言ったか、!」

いえいえ何も・・・地獄耳だなぁ・・・



「さてと・・・リューベの村へと出発!・・・ジョウイ?」

さっきからジョウイが落ち着かないのよね・・・あっ、そうか!

「ピリカちゃんにちゃんと言ってから行った方がいいよ。急に居なくなったら、やっぱりね。」

そう言うと、ジョウイはコクンと頷いて、走って行った。やっぱり心配だったんだね。
直ぐに戻ってきたジョウイ。さっきまでとは、全然違う顔してる。

「ピリカちゃん何て?」
「ここで待ってるから、きっと戻って来てって。」

ジョウイの応えに、とナナミもホッとした顔してる。

さてと・・・それじゃ、今度こそ出〜〜〜発〜〜〜!





リューベの村から、山の中へと入って行く。ここのモンスターって何か・・・
嫌い!気持ち悪い〜!

「あっ!さん、あれだよ、あの小鳥!」

小鳥?・・・・・あぁ!巣から落ちてたって言ってた。

「良かったね。元気みたいじゃない。」
「うん!」

嬉しそうに小鳥を見てるナナミ。こういうのってホッとするなぁ。



「ねぇ・・・あの小屋って何?」

ナナミが指差す方向には、確かに小屋がある。

「あそこ・・・神槍ツァイって人がいるのかな?」
「うん・・・多分・・・」
「とりあえず、声掛けてみようよ。」



声を掛けてみたけど誰も出て来ないしって事で、中へ入って行っちゃった・・・
いいのぉ〜?これって不法侵入って言うんだよ。しかも、中で待つって言うし・・・
とか言ってたら、誰か帰ってきたんだけど・・・

「人の家に勝手に入るのは、感心しないですよ。」



・・・ごめんなさい・・・



この人は、火炎槍の事で呼ばれる事が分かってたみたい。
材料も仕入れてあるって。快く引き受けてくれた。・・・んだけど・・・
仕事の代金は受け取れないって言われた。ハイランド軍に勝てた時に貰うって。

これが職人のプライドってやつなのかな。



何か・・・格好良いかも・・・



「やっぱり・・・山道は・・・辛い・・・」

ここに来て、少しは体力ついたと思ってたけど、流石に山道ってのは、キツイ・・・

さん、おんぶしてあげようか?」

・・・ありがたいけど、その気持ちだけ頂いておくわ。

「ほらさん!もうすぐリューベの村だよ、頑張って!」

うん・・・頑張ります・・・もう少し体力つけないといけないみたいね。

「さぁ、つい・・・・・!!!!!」

「ジョウイ?どうしたの?リューベの村が・・・・・」

こ、これは・・・?また・・・火が・・・って言う事は、まさか!?



・・・・・ルカ・ブライト・・・・・



やっぱり、あの時の男・・・





「俺の剣はまだ血を欲しがっているぞ!!!」





何を言ってるの・・・?血を欲しがっている・・・?剣が・・・?それとも・・・あなたが?
身体が震えてる。怖いのに・・・恐いのに・・・目を逸らす事が出来ない・・・

「こんなのは許せない!」

ジョウイ?

「このまま黙って見てるなんて出来ない!」



必死で止めるツァイさんを振り切って、飛び出して行こうとする2人。
駄目!あの男に君達だけで適うわけない!そんなの私にだって分かる!

「これ以上、ピリカのような子を増やしちゃいけないんだ!」

その気持ちは痛い程よく分かるけど・・・それでも・・・君達は死んじゃいけないの!



っっ!?・・・・・ツァイさん・・・・・



飛び出して行こうとしたその時、2人をツァイさんが気絶させて止めてくれた。

「ツァイさん、ありがとう・・・」
「いいえ。彼らを死なせるわけにはいきませんから。」

倒れている2人を、少し切なそうに見つめながら、そう呟くツァイさん。
彼だって、本当は出て行って、この凶行を止めたいんだと思う。でも・・・
この人数じゃどうにもならない。ただ・・・死体の数が増えるだけ。




「ん・・・」
「・・・いた・・・」
!ジョウイ!大丈夫?」

気が付いた2人に、ナナミが駆け寄る。

「ハイランド軍は・・・ルカ・ブライトはもう引き上げたよ。」

皆、黙ってリューベの村へと入って行く。
もう・・・先程までの面影なんて何処にもない。この人達が、一体何をしたというの?

「急ぎましょう。次はビクトールさんの砦が狙われます。」

ツァイさんの言葉に頷き、戦いを決意するとジョウイ。
自分達の祖国を相手の決意。君達の背中が・・・あまりにも痛々しいよ・・・



「あっ!お兄ちゃん達戻ってきた〜!」

砦に戻った途端、駆け寄ってくるピリカちゃんをジョウイが抱き締める。
きっと、心配でじっとしていられなかったんだろうな。で、でも・・・

そうかぁ・・・熊みたいな人も心配してたかぁ・・・そうかぁ・・・

子供って、正直だよね、ビクトール!





「お前達はここまでで良い。直ぐに支度してミューズ市へ逃げるんだ。」

ツァイさんが、火炎槍の修理の為に出て行くと、ビクトールがいきなり・・・
まぁ、彼の気持ちは分かるよ。トトの村が襲われ、今リューベの村も襲われた。
ツァイさんも言ってたけど、順番的にはどう考えたって、次はこの砦だよなぁ・・・
でもね、今のこの2人に『関係ない戦いだから逃げろ』なんて言ったってさぁ、



「「僕達も一緒に戦います!!」」



・・・・・やっぱりね・・・・・



「俺がためしてやろう。足手まといはいらないからな。」

フリック?・・・何しでかす気?
心配そうにフリックを見てたら、私の方を見てニヤッと笑った・・・



フリックさん・・・何を企んでいるのかな?



、お前が俺に手傷でも負わせれたら、認めてやる。どうだ?」
「やります!」

・・・即答かい!



目の前で繰り広げられてる、とフリックの一騎打ち・・・なんだけど・・・
私はコソコソっとビクトールの横に行き、

「ねぇ・・・フリック、本気出してる?」
「ん?・・・・・出してるように見えるか?」

あ、やっぱり?どう見ても、楽しんでる顔だもんなぁ・・・

あれ?終わり?

「おいビクトール。こいつなかなかやるぜ。俺が保証する。」

ふ〜ん・・・さっきの『ニヤッ』って笑いは、これだったのかな〜〜〜?

「フリック、お前腕が落ちたんじゃねぇか?」

ビクトール・・・あなた、命知らずって言われない?
だぁっ!フリック!!!剣を抜くな〜〜〜!!!





さん・・・」
「何、?」

部屋へと戻ってきた私達。入るなり、が私の袖を引っ張る。

「さっきのフリックさん・・・手加減してくれてたのかな?」
「・・・多分ね。」
「どうしてだと思う?」

おいおい・・・今度はジョウイかい?ナナミもじ〜っと私を見てる。仕方ないなぁ・・・

「君達には、戦う理由があるからじゃない?」
「理由?」
「それは・・・ユニコーン隊の事?」
「それもあるけど・・・」

これ以上私が言ってもいいのかなぁと思うけど、私の言葉を一言一句聞き逃すまいと、
真剣に聞いてるこの3人の瞳を見てると・・・フリック、ごめんね!

「以前、フリックが言ってたんだけどね、『あいつらが自分で乗り越えなきゃいけない壁だ』って。
その壁に、逃げないで立ち向かおうとしてるんだもん。だから・・・だよ、きっと。」

何も言わず、俯いてしまったとジョウイ。
心の中を整理して、その顔を上げた時、君達はきっと少しだけ、成長してるんだろうね。

「へへ、嬉しいね、そういうの。」

女の子だという事もあるのか、それとも性格か、君が1番素直だね、ナナミ。



「でも・・・ビクトールさんは?」

少し首を傾げて聞いてくるナナミに、悪戯っぽい笑みを浮かべて、

「あれはね・・・過保護なだけ!」



「「「いえてる!!!」」」



皆で顔を見合わせ笑う。良かった・・・また、この笑顔達に会えた。



「で、隊の名前ってどうするの?」

私の質問に、頭を抱える3人。何も考えてなかったわけね。
3人で相談して決めなさい。決まったら教えてね♪



さん!隊の名前決めたよ!」
「へぇ〜、何て名前にしたの?」

「「「レックレス隊!!!」」」